友人たちと過ごす日常は楽しく、ヒロイン達もまた個別√に入ることで魅力的な女性になっていった。故に手抜き工事になってしまっているのが本当に残念だった。
Navelができる前のBasiL時代の作品であり、約20年も昔に発売された作品のリメイク版になる。過去に完全版が出ているが、それでもやはり未完だったようで、今回で本当に完全版になる…わけではなく、既に続編の制作が発表されている。ただ、追加シナリオはあるとのことだったので、その辺への期待も込めてプレイした。
読み始めてすぐに感じたのは心地の良い雰囲気で、それを作り出していたのは周りのキャラクターと、それから自然なテキストだった。朝起きて学校に行って、友達と喋って帰る。序盤からそれがひたすら繰り返されるのに、決して飽き飽きはしない。学校から帰る様子を見ている時には次の日の友人たちとの会話を楽しみにしていた。
昨今の美少女ADVでよく見るヒロインとデートして距離を縮めていくだけではなく、男友達とカフェや遊びに出かける描写が豊富な点が嬉しくて、その上で偶然ヒロインと出会ったり、わざとヒロインが働いている場所に赴いたりしてヒロインとの関わりを作っていくのが実に素敵だなぁと。男友達との会話は楽しいし、学園では見られないヒロインの意外な一面も見られるしで、とても自然で心地の良い話の進め方をしていた。
山彦の声優さんが今も昔も変わらない点なんかも、古参ユーザーからすれば凄く嬉しいだろう。気が合ってノリが良くてイケボで…そんな男と共通√では長い時間を過ごすので、心の何処かでヒロイン√よりも山彦√に入ってしまいたいとすら思っていた。麦兵衛も良いキャラしているのだが、親友という意味ではやはり山彦がとっても大好きなキャラクターだったかなと。
さて、ヒロインの話に移るが、ヒロインは共通√をやっている時点ではつばさ、希望が気になっていた。つばさは気の合う女友達なんてまあ自分好み過ぎるポジションにいるヒロインだし、希望は希望で王道な読み進めていて心惹かれる女の子だった。共通√の時点では恋愛イベントはあまり起きず、どちらかというと楽しさに重きを置いた彼女達と過ごす日常が流れていく。これがとても好みで、先ほどのも述べた通り自然で魅力的な日常を作り出していた。
個別√に突入すると一緒に馬鹿やっていたつばさも女の子らしい一面を見せるようになっていくわけだが、遊園地や体育祭などのイベントはあくまで仲の良い女友達として進んでいくのが非常に良かった。ピンクに染まったイベントでなかったからこそ、あの茜色の放課後が映えるわけで、二人のこれまでの関係も、これからもの関係も素晴らしいものに映った。
希望の方はというと、こちらはつばさとは違って順調に恋人としてステップアップしていく感じで、はじめは少し壁があったが打ち解けて、お互い笑って会話できるようになるともういつ恋人になってもおかしくない状況だった。故に告白シーンも何ら感動的なものではなかったが、実にあの二人らしくて良かったと思う。希望の「申しこまれます」が本当に可愛い。
といった具合で他√に関しても恋人になるまでの過程は凄く好きで、評価している部分なのだが、個別√の終盤が作品の作り上、どうしてもスッキリしないのが気になった。中には下がった分、きっきり上がってきてくれるルートもあったのだが、それでも着地の仕方は雑過ぎるので...。また、未完と呼ばれる原因の部分についても今作ではやはり未対応。
で、まあこれだけなら仕方ないよねで済ませられたのだが、各√に用意されたアナザーシナリオについてはバッサリいきたいと思う。あんなペラいものを見せてユーザーが満足すると思ったのか。私自身は本作のファンでも、Navelの古参ファンでもないのだが、それでも不満と憤りが残った。続編に注力してくれるのであればそれでいいが、あんなものを見せられると、ちゃんと面白いものを書いているのか。もっと言えばちゃんと完結してくれるのか少し不安になる。
途中までが凄く良かった故に悪いところが目立ってしまっていたが、冒頭で述べた日常風景の心地よさ、友人たちと過ごす時間の尊さは他の作品にはない良い部分で、本作のファンが多く存在するのも頷ける。願わくば続編でも良いところを残したままでいてほしい。