キャラクターそのものを物語へと反映してくれた、実に私好みの一作だった。卑屈になり切れず、諦め切れず、そんな彼女が掴んだ結末を祝福したい。
毎度毎度、素晴らしい作品を出して下さるsucculentさんの七作目。キャッチコピーを見た時点で好みのシナリオに仕上がっているであろうことを確信した。ああいう短いフレーズでここまで興味を引いてくれるのは流石の一言。
本作の主人公兼ヒロインは28歳処女。普通の家庭で育って、普通に就職して、普通に生きてきたはずなのに、気付けば普通の下の方にいる女性。そして、そこに激しいコンプレックスを抱いている...と。まあ商業では中々見ない、そんでもって最高に心惹かれる人物像である。自分のことを卑下してばかりではない点が肝で、可愛くないし、恋愛なんてできないと思いつつも、心の何処かでソレに憧れを抱いているのがすごく良いなと。まさしく喪女である。
始まりの見せ男との一件では、それが余すことなく描かれており、思わず笑ってしまった。勝手に勘違いして、恋心を抱いて終わり…ではなく、相手のところまで訪ねてやろうと思う。けれど他人の人生を壊すなんて大それたこと彼女にできるはずなくて、泣いて撤退する。うんうん、最高に面倒臭くて弱くて愛おしい女の子だ。物語を読み始めてすぐに彼女のことを好きになった。
先にも述べた通り恋愛に憧れを抱いているため、ガードが堅いようで実はゆるゆるで、ぶつくさ言いながらも結局流されるような形で紫雨と初めてを体験してしまうのも実に彼女らしい。彼女の精一杯の抵抗の台詞もまた拗らせているのがとてもとても良い。達成感を胸に抱いて生きていくとか、どこまで守り続けたらそんな台詞が出てくるのか。28歳処女は伊達ではない。
そんな心の髄までややこしさで満たされた彼女はやがて、自分が紫雨の横に立つに相応しいのかを考え始めるわけだが、そこからがもう凄い。起伏を生むためのシリアスではなく、キャラクターを幸せにさせるための悲劇。そして、それはこの「おそ咲きの花」という作品を完成させるための仕上げだった。
「誰かのお姫様にはなれないが、傷物にされることで、かけがえのない存在になれる」
ああ、これが彼女の選んだ幸福(しあわせ)になるための答えであり、本作の全てなんだぁと…ただただ納得するしかなかった。愛や夢のように形のないものではなく、自分につけられた傷だからこそ信じられる。どこまで弱くて面倒臭い彼女らしい答えだと私は思う。
そして、義足の見せ方もすごく上手い。後日談でどうなったかを描くのだろうなと思いながらぼけーっとエンディングを眺めていたら…絵が変わっているじゃないか。あの時受けた衝撃はしばらく忘れないだろうし、そういった意味でも本作を高く評価したい。本当に私の追っている同人サークルさんの中でも頭一つ抜けていると思う。
また、ここまで水姫ちゃんにばかり触れてきたが、紫雨もまた実にここの作品らしい男を用意してくれたなと。とも鳴りや痴者の夢の彼等のように、無条件で相手を包み込んでくれる存在に見えてどこか屈折している。けれど、そんなキャラクターだからこそ、彼女と幸せになれる。
改めて、思った通りの素晴らしい作品だった。読んでいる時間以上に余韻が続くこの感覚が本当に好きだ。これからも良い作品を作り続けてほしい。