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asteryukariさんの恋にはあまえが必要ですの長文感想

ユーザー
asteryukari
ゲーム
恋にはあまえが必要です
ブランド
HOOKSOFT(HOOK)
得点
80
参照数
2867

一言コメント

付き合うまでの過程が丁寧に描かれているだけではなく、付き合った後のお話もヒロインと主人公の関係性を磨き上げるためのものが用意されていた。どのヒロインを攻略していても胸が高鳴るような、素敵な作品でした。

**ネタバレ注意**
ゲームをクリアした人むけのレビューです。

長文感想

HOOKSOFTの最新作であり、今作は過去作「どっちのiが好きですか?」のように個別ルートから更に二つのルートへと分岐するというのが売りになっている。これが結構楽しみで、シナリオに対する期待も上がった。あとは単純にキャラクターデザインが好みだったので、総じて本作に対する期待値は高めだった。

で、結果としては想像していたよりも好きな作品に仕上がっていた。まず良かったのがヒロインと知り合い、そして付き合うまで過程だ。特定のヒロインに限らず、どのヒロインも丁寧に描かれて、中でも視点の切り替えに関しては素晴らしいの一言だった。

主人公視点でヒロインの好感度を稼いで何となく告白して終わりではなく、パートの合間合間にヒロイン視点を差し込んでくるのが非常に良かった。あれがあることでヒロインの心情をダイレクトに理解できたし、単純にヒロインを愛でたい気持ちも大きく膨れ上がっていった。ヒロイン視点を見てから興味を持ったヒロインもいたりしたので、本作において地味ながらかなり評価している部分でもある。

また、付き合った後にも二人の関係をより尊いものと感じられるような素敵なお話が用意されていた点も嬉しくて、そこに関しては想像していた内容を大きく越えてくれたなと思う。良かったのが掘り下げる必要があるところと、掘り下げる必要がないところの判断がしっかりしているところで、流石は古参ブランドだなと感心してしまった。コンスタントに良作を出してくれるHOOKさんだが、今作は特にシナリオ部分に気を配って作ってくれたようで、それがとても嬉しかった。

とまあ全体についての感想はこんなところで、ここからは個別ルートの感想に移っていく。



○氷華
修学旅行先で偶然出会ったお嬢様で、真面目で正義感が強い女の子…だけどドジっ子なのがとても愛らしい。序盤は想像通りのお嬢様でそんなに心が惹かれなかったのだが、読み進めていくうちにどんどん可愛くなっていった。ヒロイン視点のみに絞っていえば、一番かわいかったと言っても過言ではなかろう。普段はお嬢様だけれど、恋愛が絡むと本当に平凡な、そして初々しい恋する乙女に大変身する。こんな特大のギャップ砲を喰らって無傷でいられる者などいないだろう。

また、彼女を慕う後輩である茨も邪魔者にならず、話を盛り上げるための大事な役者として扱われていたのがとても良かった。お嬢様の後輩と聞くと個別√でよくない方向に走りがちなのだが、この作品は違う。羨ましいけれど、しっかりと主人公を褒め称え応援する。それができる良い子ちゃんだった。

そして、シナリオもかなり自分好みに仕上がっており、後輩や友人、妹、主人公の親など様々な人物を絡めながら二人の現状を更に幸せにしていこうとするのがかなり好きだった。そういった意味でも私は「その気持ちをぶつけてもらいたい」ルートの方が気に入っている。両親が亡くなっているというネガティブ要素をネガティブな展開に使うのではなく、ポジティブな展開に乗せてしまう。それが凄く気持ちいい。満面の笑みで、幸せそうに手を合わせて両親に報告する彼女を見て涙が溢れてしまった。



○満留
喫茶店で出会ったお姉さんというヒロインの中で接点がかなり薄い女性。共通ルートも他と比べるとそんなに盛り上がることはなくて、ヒロインらしさはあまりなかった。なので再会してすぐ家政夫として雇うことになった時も、こんな不自然なテンポで大丈夫かと心配にもなった。けれど、そんな不自然が段々と自然になっていき、告白する頃には気にならなくなっているのが流石だなと。

このルートも氷華ルート同様、サブキャラクターが良い役回りをしていて、頼子さんの存在が満留をより愛らしいヒロインへと磨いていた。笑いを交えながらも真剣に相談に乗り、彼女の背中を押してくれる。友達は少ないと零していたけれど、頼子さんがいれば他に要らないだろう。そう思ってしまう程に魅力的なキャラクターだった。

で、このルートに関しては「その努力を認めて欲しいから」の方が好きかなと。もう一方のルートと比べると結構ギャグチックな話が多くて、こっちはギャグ枠なんだなと思っていたら、手紙の部分から綺麗に二人の関係に繋げてきた。あの分岐から主人公が成長し、ようやく彼女の横に並ぶことができたのだと、それが実感できる良い締め括りだったと思う。エピローグの満留が相変わらずなのも嬉しい。



○千羽
従姉妹の友達→義妹とかなり急激に距離を縮めてきた女の子。この子はもうシンプルにかわいい女の子といった感じで、共通ルートですらそのあざとい妹ムーヴに目を奪われた。目を九の字にして赤面した時なんかは「萌え…!萌え…!」と鳴く豚になってしまうくらいかわいい。そのくせヒロインの中でもかなり押せ押せな性格なのがまた。

付き合ってからは皮が更に剥けて、実はドスケベで実はかなり独占欲が強いことが発覚する。あんなに仲がよかった小鳥ちゃんを適当にあしらったり、桜雅がびびるくらい嫉妬心を燃やしたり…そして、その分えっちになると主人公を求めてくるのが実に悪魔的である。家で二人きりになる時間ができる度にそわそわしていたのがとても印象的だ。

ルートの中身はそれほど良質なエピソードが詰まっているわけではないが、彼女が初めて本音を吐露するという意味では「たまにでいいから甘えてみたい」の方が読みごたえはあったかなと思う。変に毒親を出してきたりせず、今ある幸せを噛みしめて終わるというのが綺麗で良かったなと。



○桜雅
人類最強の血を引き、極度のあがり症で、変な語尾で子供の頃からの幼馴染というヒロイン。ああ、もうどうしてそんなにたくさん設定を詰め込むかな、全部大好きです!と叫んでしまうような女の子だった。故に満留ルートの彼女を見た時は結構辛くて、絶対に彼女が幸せになる瞬間を見届けてやろうと誓った。

ただでさえ普段からくっつき虫で愛らしい彼女だが、恋心を自覚してからはその愛らしさを爆発させてくる。特に気が動転しすぎて敬語を使ってしまう場面は危なかった。なんでそんなにかわいいんだお前はと、彼女の言うように私もショック死しそうになった。

そして、水族館デートでは幼馴染であり、恋人になったことの喜びが描かれている。
「バカバカしくて、くだらないやり取りをしているだけなのに」
「どうしてこんなに嬉しいんだろうな」
幼馴染という立ち位置と、彼女の性格を活かした素敵なやりとりが詰まっていて、上がった口角がしばらく戻らなかった。言葉だけでなくCGからも喜びが伝わってくる。

また、主人公の家でお泊りえっちした後の台詞が何気ないけれど、凄く好きで頭に強く残っている。
「今日は…」
「ううん。今日もありがとう」

幼い頃からいつも一緒にいて助けてもらっていた。だから今日”も”なのだと、細かいところにもしっかりと仕込んでくるライターさんの力にただただ頭が下がるばかりだった。この場面以外にも桜雅ちゃんが主人公に対して”感謝”の気持ちを抱いている場面はいくつもあって、それを見つける度に桜雅ちゃんへの想いが膨らんでいった。こんな子を捨てる選択なんて私にはできない。

ルートはどちらを選択しても桜雅のことが好きなら幸せになってしまうような内容だが、彼女の成長を望むのであれば下段を選んだ方が良いのかなと。ただ、彼女も言っていた通り、かわらなくてもいいものもあるというのが私の意見であり、これからも助けてもらう側で居たい彼女もまた愛らしいと私は思うのだ。これからも変わらずにずっと傍にいてくれるだけでいい、そんな幼馴染的な結末を美しいと感じる。



振り返ってみると全体的に力の入った作品だったなと改めて思う。
次回作も期待しています。