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asteryukariさんの終わらない季節の真ん中での長文感想

ユーザー
asteryukari
ゲーム
終わらない季節の真ん中で
ブランド
Lopt software
得点
75
参照数
141

一言コメント

季節感を味わえるだけでなく、内容も少し切ない恋物語として充分なクオリティのものを見せてくれた。本当に作品のテーマに忠実な、丁度良いところで止めてくれたと思う。

**ネタバレ注意**
ゲームをクリアした人むけのレビューです。

長文感想

ビジュアル的にもあらすじ的にもC100ノベルゲームの中では期待を寄せていた作品だった。ある日、突然別の世界に飛ばされてしまった二人が、どうなっていくのか。また、帰る方法はあるのか。ベタながらとても先が気になる良い導入だったと思う。

本作の肝は異世界ではなく別の平行世界、しかも二人にとって理想とも呼べる世界に飛ばされる点であり、帰る方法を模索するよりも、その世界でどう過ごしていくのかが丁寧に描かれていた。元の世界ではいつの間にか距離が空いてしまった幼馴染の咲夜。そんな彼女と再び顔を合わせる毎日を送ることができる。そんな環境にいて帰りたいなんて思うはずもなく、序盤は彼女、それから仲間たちと共に過ごす日常が描かれている。夏祭りのシーンなんかは非常に印象的。

やがて、主人公と咲夜は恋人のような関係になっていくが、そのまま恋仲にしないのがこの作品のこだわりである。この世界の咲夜は主人公が好きになった過去の咲夜とは違うのだと、それを明示するだけでなく、故に無図ばれない恋にしてしまうのは凄いなぁと。商業ならば別ルートで結ばれることもあるかもしれないが、本作は一本道。徹頭徹尾「マイナスからゼロに戻すお話」だったのだ。

主人公もはじめはその辛すぎる現実に目を背けていたが、彼女達と過ごすことで改めて自分の見つめなおし、最終的には自身の意志で元の世界に帰ることを選択するのが良いなぁと。終盤に咲夜から想いを告げられても決して答えを変えたりしない。本当に逞しい主人公に成長してくれて、ちょっとした感動すら覚えた。

失恋して、失恋して、ようやくスタートラインに立った主人公。彼の恋物語はここから再び始まるのであり、その行く末を見届けられない事実に歯がゆさを感じるユーザーもいるかもしれないが、私としては凄くテーマに忠実な丁度いい着地をしてくれたと思う。



といった感じで主人公と幼馴染のお話は充分以上良かったのが、本作にはもう一人ヒロインと呼べる存在がいた。そう、主人公と共に平行世界に飛ばされたツナギである。その立ち位置から元の世界以上に主人公と接する機会が増え、周りからは恋人なのではないかと関係も疑われることもしばしば。実際に二人とも惹かれ合っており、終盤にはツナギが主人公に告白する瞬間が訪れる。その告白が本当に胸に来る。

彼女が恋心を成熟させたのは日々の積み重ねだったかもしれないが、好きになるきっかけはやはり「見分けてくれたこと」だったわけだ。それを思うとあの花火大会の時に出来事がツナギにとってどれだけ衝撃的で、幸福な瞬間だったかがよくわかる。

「好きです、先輩。きっと、誰よりも」

主人公と咲夜の関係を知っていて、ここまで言える。そのあまりに真摯なツナギの告白にきっと誰もが心を打たれただろう。私も本当に一番好きなキャラクターは誰かと聞かれれば間違いなく彼女と答えると思う。しかし、彼女の想いは報われないわけだ。なぜなら、主人公が好きなのは彼女ではなく咲夜なのだから。その答えを聞いて笑みを浮かべるツナギを見た瞬間はまあ思うところもあったのだが、作品のテーマとして、満点の返事を出してくれた主人公に対する喜びの方が大きかった。本当に切なくて涙が出るけれど、やっぱり嬉しいのだ...。



振り返ってみると表で描かれているのは主人公と幼馴染の恋だったけれど、その裏にあった主人公とツナギの恋も素晴らしかったなぁと。ツナギの視点で物語を再度読み返してみるとまた違った良さがある。魔法使い関連の設定や、あの人物はどうなったのか等々、消化不良な点も大いに残っている。が、恋物語としてはよくできていたし、大変自分好みの内容に仕上がっていた。

フルカラー本によると当初は三部作として作られたようだが、果たして続きは出るのか。出してくれたら嬉しいし、もちろん購入させていただくが、この作品だけでも充分に良い作品だと私は思う。素敵な一夏の恋物語をありがとう。