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asteryukariさんのパワプロクンポケット9の長文感想

ユーザー
asteryukari
ゲーム
パワプロクンポケット9
ブランド
KONAMI
得点
81
参照数
20

一言コメント

ただヒロインと時間を共にするだけではなく、彼女たちが変わるきっかけを与え続ける彼は、間違いなくナイスガイだった。

**ネタバレ注意**
ゲームをクリアした人むけのレビューです。

長文感想

寂れた商店街を復興させるべく、野球で勝ちまくって盛り上げていこうというのが導入部分。本作の主人公は前作と同じかそれ以上に癖があり、落ちているものを平気で食べたり、飲食店に無料飯を集りにいったりと、序盤をプレイしている時点では全くと言っていいほど魅力がなかった。しかしながら読み進めていくことで徐々に彼に惹かれていく自分がいた。

読み終えてみると実に彼の魅力が反映された作品だったなぁと思う。商店街のみんなとの接し方であったり、助っ人たちとの交流風景、そしてヒロインたちへの寄り添い方…そのどれもが丁度よくて、男気があって沁みる。だからこそ各ルートで商店街や野球仲間たちと別れるシーンはくるものがあって、いつの間にかあの空間自体が好きになっていたのだなぁと。商店街のみんなも湿っぽい感じではなく、明るく送り出してくれる点が凄く好きだ。

こんな具合で主人公に対する評価が高かったのもあって、常に楽しかった。前作はヒロインのパワーで攻めている感じがあったが、今作はもっと基礎的な部分を補強してくれたようで、それが凄く嬉しかったなぁと。


続いては各ヒロインのシナリオについて語っていきたいと思うが…ヒロインは今回も個性が爆発しまくりだった。普通の女の子だと思ったら社長令嬢だったり、幽霊だったり、サイボーグだったり…振り返ってみると、なんて凄い面々なのだろう。しかもシナリオもかなり過激で、枕営業があったかと思ったら目の前で人が殺されたり、爆死したりとやりたい方だった。本当にこれを全年齢でやっていいのだろうか。Bくらいが妥当だろう。

そんな刺激的なシナリオではあったが、テーマはしっかりしているし、恋愛風景もまずまず以上のものを見せてくれる。しかも前述したとおり主人公が凄くいい立ち回りをしてくれるので、クオリティはかなり高かったように感じる。中でも好きだったのは貴子ルートと維織ルート。ヒロインとしては武美なんかもかなり強かったのだが、主人公の魅力が光るのは先の二つかなと。以下、具体的に感想を述べていく。


◆貴子ルート
コロッケをきっかけに主人公と知り合う女の子。夏菜と同様に餌付けされていく形で関係が親密になっていくわけだが、貴子ちゃんがとにかく良い子過ぎて涙が出てくる。恋する乙女という感じでもないが、しっかりしているからこそ時たま見せる女の子らしい一言にドキッとするし、絵に描いたようにイイ女だった。だからこそ真実を知った時は思わず声が出てしまったし、パワポケくん相変わらず攻め攻めだなぁと。

ただ、急展開といった感じは全くなくて、むしろその事実を踏まえてこれまでの彼女の行動を思い返すと、胸が締め付けられた。成仏することに臆することなく、むしろ「楽しい思い出をありがとう」と神様と主人公に感謝の言葉を零す。どこまでイイ女なのだろうか。とてもじゃないが9歳の振る舞いではない。

グッドエンドのエピローグがこれまた良くて、主人公の選択に感謝すら覚えた。彼女への想いが膨らんで弾けそうだったのは、私だけではなかったようだ。風来坊が、愛する女のために米屋で働く未来をとる...あまりにも素敵な光景だ。


◆維織ルート
物静かな大人な女性で、実は社長令嬢というヒロイン。最初はその性格から甘々でもなければ、刺激的な展開にもならなそうだなと感じていたのだが、距離の縮まり方がとても丁寧で、読んでいて安心感すら生まれた。自分の生きる道に葛藤している…テーマとしてはありふれたものだが、読み応えがあったなと。

「俺が君の鎖を引きちぎる事ができるかどうかはわからない。それができるのは自分だけだから。」
「翼を広げようともしていない人間が、できなかったなんて口にするな!」
「選ぶのは維織さんだ。だから維織さんの本当の声を俺に聞かせてくれ。」

上記は全て主人公の台詞なのだが、もう本当によく言ってくれたと賛辞の拍手を送りたくなるような言葉しか吐かない。いつまでも寄り添ってやるけど、変わるのは自分なんだと、厳しくて愛のある言葉を紡ぐことができる最高の彼氏を見ながら、ただただ頷くばかりだった。彼の言葉をしっかり受け取ったという意味でもグッドエンドは非常に綺麗だなと思う。





8,9とプレイしたが、もう「野球ゲームにしては」とか、「CSゲーにしては」とか、そんなハンデは考えなくて良くて、純粋に物語を楽しもうとしても十分以上に楽しめる。改めてパワポケシリーズの持つ力に驚かされた。ヒロインシナリオも、後半にいくにつれて野球要素いるのかと思う瞬間があったりもするが、忘れたころに「不可能を可能にする」という意味合いで野球を生かしてきたりするので面白い。

次の試合はどんなドラマが待っているのか、とても楽しみだ。