ヒロインを可愛く見せることに特化した、甘々で癒しを感じる一作だった。魅力的な世界観なだけに、もう少しシナリオ方面にも力を入れてくれると嬉しかったかなと。
AIが発展した近未来を舞台にしている作品であり、背景絵は勿論、BGMも作風に合わせたものが使用されていた。買い物にするにも、施設を利用するにも個人用アシスタントホログラム「ティンク」が使える。そんなティンクで染まった世界観が凄くそそる。読み始めて数分でしっかりと心を掴まれた。
そして、心を掴まれたのは勿論、世界観だけではない。あの時代でも規格外のティンクであり、本作のヒロインでもあるイオちゃんもまた私の心をぎゅっと鷲掴みにしてくれた。明るくて元気いっぱいで、AIにしては珍しく初めから感情を持っている。いついかなる時もご主人様たる主人公の役に立とうと必死になっているのが本当に愛らしくて、眺めていて心が癒された。
つまるところ本作の魅力は何だったのかと考えると、それはやっぱりイオちゃんとの日常にあるのかなと。実体化できるティンクというイオちゃんの特性を生かし、どこでもどんな状況でも愛し合っている光景が印象的だった。本当に二人きりの時間を作ることに徹底しており、序盤はクラスの仲間やティンク開発関係者など、様々な登場人物が出てくるが、物語の半分以上はイオと二人で過ごしていた。本当に二人でデートをする時なんかは全然人と遭遇しないのがちょっと面白い。
故に全体を通してあまり起伏はなく、終盤は少しアクシデントが起きたりもするが、状況のわりにはあっさり解決するので読む進める面白さはない。あくまでイオちゃんの力を示すためのものだった。全てのティンクに干渉し、街丸ごと自身の支配下に置く。可愛い顔してとんでもない少女である。でもだからこそ、ますます彼女のことを好きになった。
魅力的な世界観を用意してくれたわりに、シナリオにはあまり活かされていなかったので、少し物足りなさはあるけれど、変に捻って大コケするよりヒロインとの時間を優先した方針自体は嫌いではないので、それなりには満たされたかなと。もしイオちゃんに膨れっ面で「私との時間は楽しくなかったの?」と聞かれた首が捥げるくらいぶんぶん横に振るだろう。
イオちゃん以外にも愛らしい女の子はいたし、エピローグ後の字の文を見るかぎり、まだまだ別のカップルのお話なんかも用意できそうである。続編を切望しているわけではないが原画はやっぱり可愛らしいし、キャスティングも良かったので、出たら購入してしまうかなと思う。