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asteryukariさんの2045、月より。の長文感想

ユーザー
asteryukari
ゲーム
2045、月より。
ブランド
MELLOW
得点
72
参照数
2207

一言コメント

全体的に安っぽさが目に付く作品ではあったが、まとまりは良かったのでそこは評価したい。加えて思わぬ収穫もあったので、気持ちもそれなりには満たされている。

**ネタバレ注意**
ゲームをクリアした人むけのレビューです。

長文感想


2045年のシンギュラリティ―が訪れると予見された、アンドロイドがいる生活が当たり前になった時代を舞台にしたお話。過去のトラウマからアンドロイドを毛嫌いするようになった青年が、一体のアンドロイドと出会い、やがて彼女と共に大きな事件に巻き込まれていく。

アンドロイドのシンギュラリティを題材として扱っているということで、昨今ではよく見られる設定ではあるものの、やはり好きなジャンルなので序盤の設定が散りばめられている感じはそそられたし、OP前の物語が大きく動き出す場面では興奮も覚えた。ああ、これから人類の存続をかけた大きな戦いが始まるのだなと、本当にわくわくした。


本作には三つのルートが本格的に個別の内容に入るのは終盤になってから。序盤から中盤にかけては共通するストーリーが主軸となっていて、その合間でヒロインとの距離を縮めていく作りになっていた。中には世界に危機に瀕しているのにもかかわらず、呑気にえっちかよとツッコみたくなる瞬間もあったが、そこはさておき。

共通のストーリー、つまりサイトーが起こした事件に触れると読み始めこそ、新情報をずらーっと並べていく感じが面白いなと思ったのだが、読み進めるにつれて徐々にチープに感じてきてしまった。サイト―が凄いのではなく、人間側が甘すぎるのだ。きちんと納得のいく行動をした裏をかかれるのであれば、サイトーすげえ!面白い!と感じるのだが、そうではなかった。


そして、その感覚は個別√の終盤になるとまた蘇ってくる。ゆい√、調√は話の面白味こそないが、それなりに清涼感のあるお話を用意してきてくれたが、本作のメインであろうエル√はあまり良いとは言えない出来だった。

終盤、阿仁堂が裏切り行為を働いた瞬間こそ意外な展開に目を煌めかせた瞬間もあったのだが、実は裏で彩夢が動いていて、更にその裏で東雲が動いていたという三重層になっていた。しかもそれを結構なハイテンポで展開させていくので…唖然とした。きちんと時間をかけたどんでん返しになっていたら驚きもあったかもしれないが、あれでは迷走しているようにしか見えない。東雲を最後に持ってきたいのはわかるのだが、そこに意識が集中しすぎて前が大変なことになっていた。

また、つい先程まで銃口を向けられていた阿仁堂や彩夢をサクッと許し、助けようとしている点もモヤが残る。殺せとは言わないが…少し優しすぎだなぁと。物語だけでなく、各登場人物に対する好感度も下がってしまった。



とまあ、ここまで酷評続きだが、ヒロインの桜月調ちゃんについてはべた褒めしてあげたい。自分の気持ちに素直になれず、怒ると怪力をお披露目してしまう。そしてちょろイン。まさに自分好みのヒロインであり、序盤からお気に入りのヒロインだった。惚れされたら絶対デレデレになるし、可愛いだろうなぁと。

まさにその通りで、付き合い始めるとぶつくさ言いながら何でも許してくれる。生で出しても怒らないし、キャバクラへの潜入任務だって引き受ける。本当に「都合のいい」という言葉が似合う女の子。気乗りしない感じでも絶対に頷いてくれるのが愛おしくてたまらない。

話の中身は薄っぺらいが、目の前で両親を失い、復讐のためにずっと生きてきた。そんな彼女が主人公と出会うことで、復讐以外の道を選べるようになったのだと考えると良い話にも見えてくる。そういった意味でも彼女のルートが一番読んでいてストレスを感じなかったかなと。





好きそうな要素を撒いたわりに話があまり膨らまなかったのは残念だが、凄く自分好みのヒロインにも会えたので、まあそれなりには良かったのかなと思う。