単に設定を補完するだけでなく、きちんと面白い話も準備しながら補完してくれたのがとても嬉しい。本編が好きなユーザーは勿論、本編で消化不良感を覚えたユーザーにもやってもらいたい一作。
昨年発売した魔法少女消耗戦線のファンディスクであり、本編とは違う賑やかで平和的な小話や、本編で光が当たらなかったキャラクターを主人公にしていたエピソードがなどなど、プロローグを含めると実に十ものお話が用意されている。
本編がかなり悲惨な物語だったのもあって、FDは落ち着いた内容になっているのではないかなと、もっと言えばかなり平和な作品になっているのではと踏んでいたのだが、そうではなかった。
前半に開放されるお話(選択画面左側)に関しては思っていた通りで、魔法少女ではなく探偵やウェイトレスとして生き生きと働くヒロイン達が描かれている。探偵になり切っているリゼットちゃんはまあかわいいし、本編でも大好きだった残雪はポニテスーツ姿凄く似合っている。ああ、こんな未来もあったのだなと思うと笑みがこぼれた。事件が起きても誰も死なず、犯されないのが良い意味で不自然だった。
で、本作のメインとも言える魔法少女のエピソードについて語っていくが、まずは「アリシャ・オラオンは死んだ」について。この話は後半に開放される話と比較するとかなり短めなのだが、個人的には大好きなお話だった。良かったのはまあアリシアとキバキの関係性になるかなと。
チームメイトではなく、仲良しでもないけれど、廊下ですれ違ったら必ず話す。そしてそんな彼女達がとある約束をし、それを果たす時がやってくる。話の進みはやや早く感じたが、まあ好きなタイプのお話だったなと。また、本編のみのり達とは違い、ただひたすらに理不尽が詰め込まれている点も趣味が悪くて良いなと思う。別視点で描くとこうなるわけだ...。
次に「ちいさきものたちのゆめ」及び「續・月軌道会戦 冥界宙域編」について、これがもう最高に良かった。まず、気になっていた三人に焦点を当てているのが嬉しいし、大好きな残雪視点で物語が進行していくのも。残雪がなぜ魔法少女から脱している期間があったのか、何が原因でそうなっていたのか、本編で謎だった部分が読み進めていくうちにどんどん明らかになっていった。
先ほど語ったアリシアについても出番があって、今回の話ではまた別の結果になっていた。前回とは違い、今回は死ぬ瞬間に理性が戻るのも良いなぁと。軽口を叩いて散っていくのが、まさにあの二人の関係を象徴していて好きだ。
そして、終盤の戦いはまさに魔法少女たちの集大成といったところで、かつて魔法少女達だった者たちも出てくるのが嬉しい。特に自分は残雪に感情移入していたのもあって、雨桐の応援に涙が出そうになってしまった。捨て駒ではなく糧にしてくれた。その喜びがどれだけ大きかったか…。
またキルケの迎える結末が、本編とは異なる点も好きな部分である。あれだけやりたい放題してくれたので、今回も彼女のことを好きになることはなかったけれど、彼女が消えるで悲しむ二人の心情は理解できた。なぜ理解できたのか、それはきちんと三人についての過去が補完されていたからだ。残雪の「わたくしだって泣きたいのに、泣けないじゃないです。」で少し泣きそうになってしまった。流石は大ベテラン声優といったところだろうか、相変わらず声色の使い方上手い。
振り返ってみると本編で冗長に関した部分が見事に撤廃されていて、それでいて書いてほしかった部分の話がしっかりと盛り込まれているので、気付けば本編以上に好きな作品になっていた。素敵なファンディスクをありがとうございました。