全体を通してふわふわとしていたものの、前作と同様にヒロインのための物語が書かれていた点は非常に嬉しい。また前半の行動が後半ではまた違った意味を持つようになるのも面白かったなと思う。
前作「保健室のセンセーとシャボン玉中毒の助手」の続編にあたる作品であり、本作のメインヒロインはシロバナちゃん...ではなくオトヒメ。前作ではサブキャラに位置するキャラクターであり、校医という立場からまあ攻略はできないだろうと思っていたが、見事にヒロインに昇格してくれた。彼女が主人公とくっつくことが、シロバナちゃんにどう影響するのか。というかあの頑固娘が素直に譲るのかも含めてプレイするのが楽しみだった。
本作は大きく二つのパートに分かれており、前半は鈴に焦点を当てたお話で、後半はオトヒメに焦点を当てたお話が用意されている。ただまあ、前半で起きた出来事が後半に繋がっていくため、実質的には一本道になるのかなと。タイトルに偽りのないオトヒメのために用意された物語だったわけだ。
前半ではある日突然、現れた「鬼」の存在を絡めながら、今まで明かされていなかった鈴の出生について触れていく。前作ではヒロイン級の魅力を秘めているにもかかわらず、対して活躍のないまま終わってしまったので、彼女について触れてくれるのは純粋に嬉しかったし、新事実が露見するだけでなくヒロインとしての立ち振る舞いを見せるようになっていく彼女は実に可憐だった。
鈴は可愛かったし、鬼という未知の存在を追っていくのは面白くあった一方で、常に面白さが持続していたかというとそうではない。というのも進展があまりないのだ。そんな状態で設定的な説明だけをつらつらと語られても困ってしまうし、意外とその説明の重要性が薄かったりするのも痛い。また、前半は結局のところ小物を退治して終わりなので、どうしても消化不良感が残る。あくまで後半に向けた準備段階くらいに考えて読むとしっくりくるかもしれない。
次に後半について語っていくが、後半はかなりオトヒメというキャラクターに迫っていく話なので、純粋に楽しむことができた。嬉しかったのが過去の回想にがっつりと尺を割いてくれた点で、過去が語られるたびにオトヒメというキャラクターが肉付けされていく感覚がとても心地いい。新キャラであり、オトヒメの名付け親であるマロウドもすごく自分好みのキャラクターをしていて、終盤は涙ぐむ瞬間も...。
二人の関係の何が良かったかというと、それはずばり二人とも不器用なところ。遠回りしたやり方でしか自身の気持ちを伝えられない、けれどその応酬がすごく私好みだったのだ。終盤の会話なんかは疑似的ではあるが、母と娘の関係を彷彿とさせる。本当に不器用で、だけど素敵な関係だった。
また、後半を読むことで前半のオトヒメの行動に別の意味が生まれるのもすごく良い。彼女がなぜあの時、ヒグマの攻撃を庇ったか。勿論それは主人公や鈴を守るためではあるが、彼女を突き動かしたのはそれだけではないだろう。あんな彼女らしくない行動をしたのは、やはりマロウドの存在があったから。かつてマロウドが自分を庇ったようにと、無意識に真似たのだと私は思う。ゴスロリ衣装や喋り方も真似ている彼女だ、そうとしか考えられない。そして、そんな風に実は中身も幼いオトヒメが愛おしくてたまらない。
丈調査を感じる部分はあったものの、しっかりとキャラクターに沿った物語が描かれていたので、予想よりもだいぶ好き寄りの作品に落ち着いた。欲を言えば後半の過去回想でマロウドの立ち絵を用意してくれたらもっと良かったが、内容としては充分かなと。何よりしっかり前作以上にオトヒメを好きになれたのが嬉しい。