単体のクオリティは勿論の事、前作の存在も作品の中で強く生きていて、作り手の愛を感じた。思い出を振り返るだけで自然と頬が緩む。
深爪貴族さんの新作という事で、前作「King Exit」と同様のジャイアントキリング路線の王道RPG。前作を先にプレイ済みだった事もあり、タイトル画面の時点で既に涎が垂れてくるような状態になっていたが、いざやってみると…これが本当に素晴らしかった。まあ面白いだろうなぁとは思っていたし、序盤は落ち着いてプレイしていたのだが、いつの間にか落ち着いているフリになっていた。
本作はKing Exitの10年前の世界について描いたものであり、今回は魔族視点で話が進行していく。前作では憎き相手として人間たちの前に立ちはだかったトーデイラやザナハリーが今回は仲間なのだ。そんなわけで序盤は中々複雑な気持ちだったが、彼らにも人情というか、仲間意識は強くあるようで自然と彼らの事も好きになっていった。視点を変えるだけでこうもキャラクターや世界の見え方まで変わってくるから面白い。
前作では不明瞭のまま終わってしまった残滓についての説明が丁寧にされていたのも個人的に嬉しく、彼らがどれほどまでに魔王の事を想っているかがありありと伝わってくる。冷静沈着でありながら、実は残滓の中でも一際仲間想い。そんなトーデイラを見て彼の事を一層好きになれた。
といった感じで主人公デスポリュカを軸に魔族の世界征服に向けた話が進行していくわけだが、単純に人間たちを惨殺したり、支配してくわけではない。魔族でありながら人間たちを大切にしようとするデスポリュカの優しい一面が強く物語に影響し、それが素敵な物語を作っていく。振り返ってみると最初から最後までデスポリュカの物語だったなぁと思う。
また、先ほども述べた通りKing Exitの10年前の物語なので、話を進めていくうちに魔族以外にもKing Exitで出てくるキャラクターが登場する。どのキャラクターを見ても興奮してしまっていたが、中でも獄長が登場した時は思わず吹き出してしまった。なんでそんなに笑顔なんだよと、本性を知っているが故に我慢できなかった。
やがてはキャラクターだけでなく歴史も前作に繋がってくるわけだが…前作をプレイしていて三章のあのシーンで目を見開かなかったユーザーなどいるのだろうか。本当に急にやってきたので、思わず声が出てしまった。
ただ、前作に繋がってしまうと実質、魔族の物語は終わりを迎えるわけでその辺はどうするのだろうかと、そんなことを心の中で思いながら読み進めていた。その答えの提示方法がこれまた凄い。薄々そんな予感はしていたが、本作は単なる過去の物語ではなかったのだ。過去から始めることでもう一つの未来へと繋げることができる、まさしく「歴史の外道」の物語であった。正史を選ぶと出る「continue to~」も地味に嬉しい。
暗殺リーダーこと獄長が本性を現し始めたり、リリィキラーの過去について触れられたりと、四章からは話の深みも増していく。特にリリィキラーとデスポリュカのエピソードは単純に新事実が発覚するだけでなく、これまでのリリィキラーの台詞を振り返ると中々くるものがある。
「わからない…どうしていいか。けど…私も…あの子たちも…」
「こういうものが…欲しかった...ッ 求めつづけていたんです…きっと」
リリィキラーが初めてデスポリュカの料理を食べた時になぜ涙したのか、それを理解すると同時に彼女に対する想いが込み上げてきた。物語終盤を見ても言えることだが、本当に良いキャラクターしている。
そして、本作の最終章に当たる五章はまさに集大成と呼ぶに相応しいものであり、皇帝との決着がつくのは勿論、白抜きとの関係性や皇帝もといブレスカースの正体にも触れてくれる。巨悪を討ってそれで終わりではなく、きちんとその正体に触れて、しかも読み手を納得させてくれるような説明をしてくれるのが本当に凄いなぁと。再び「可能性」という言葉を使うのも洒落ている。
あとは個人的に最強の名を賭けた男の戦いが見られたのも嬉しかったなと思う。融合解除なんて少年漫画を彷彿とさせる激熱展開を用意してくれるだけでも嬉しかった。騎士団長が「ある未来」を見て散りゆくのも、前作をやっている身からすると沁みる。
結末に至るまでの部分は少しテンポが早めに感じたものの、肝心の結末は素晴らしいの一言だったので、まあ気付いたら涙してしまっていた。一番救いたかった者たちを救えなかったと嘆いていた彼女に同調していたからこそ、クラウラの「ポリュカちゃんの戦いが、魔族を救ったんだよ!」が胸に響いた。本当に、大成功で終わって良かった。
といった具合で本編については褒めちぎることしかできないくらい楽しませてもらったわけだが、それだけでは終わらない。二周目に遊ぶことができるアナザーエピソード、これがまたよく出来ているのだ。
アナザーエピソードはその名の通り本編とは異なるお話であり、敵も異常なまでに強い(特に王はお祈りゲーになる)のでどちらかというとやり込み要素的な側面がある。しかしながらKing Exitをプレイしたユーザーには絶対にプレイしてもらいたいなぁと。
中ボス枠としてサミダレ様が登場した時点で何となくその先に待ち構える敵が見えてくるが、それでもあの王座に辿り着いた時は鳥肌を立ててしまった。これが見せたかったんだろうなと思える凝った演出と、強者感溢れる人類解放軍決死隊の面々。ゲオルイースが冷たい表情を浮かべているのが凄く良い。戦闘中に会話が入るのも嬉しくて、もう一度King Exitをやり直したくなったほど。
そして、王との一戦についてもKing Exitのラストに沿ったものであるし、BGMも聞き覚えのあるメロディを流してくれる。まあ強すぎてそれどころではなかったのだが...。ひたすら毒を撃って避けるように祈っていた。
総じて素晴らしい作品だった。振り返ってみて思うのは純粋に物語も面白かったが、前作との絡め方が文句なしに良かったなと。前作からプレイしてよかったと心底思う。
深爪貴族さん、本当にありがとう。