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asteryukariさんのLUNARiA -Virtualized Moonchild-の長文感想

ユーザー
asteryukari
ゲーム
LUNARiA -Virtualized Moonchild-
ブランド
Key
得点
74
参照数
553

一言コメント

勢いで前へ前へと進んでいく作品故か、終盤になるにつれて気になる部分も増えていくが、話としてはまあ悪くなかったのではないかと思う。ヒロインも実に魅力的だった。

**ネタバレ注意**
ゲームをクリアした人むけのレビューです。

長文感想

Keyの最新作であり、しかもバーチャルヒロインとの恋物語というのだから気にならないはずもなく、期待値もそこそこ高めだった。ジャンル的には最近増えつつあり、もはや珍しくはないのだが、まあ好きな要素を多分に含んだジャンルなので、純粋にプレイする時は楽しみで仕方なかった。


読み始めて早々バーチャルワールド全開であり、「Skyout」と呼ばれるVRバトルアクションレース自体には最後まで魅力を感じる事はなかったが、主人公が天才ゲーマーであるという点はなかなか好感触だった。キザという言葉よく似合う若干痛いタイプの主人公なのだが、それが逆につぼにはまるというか、現実を冷めた目で見つめる彼が、やがては恋をするのだと思うと笑みがこぼれる。


そして彼を落とした女の子であり、本作のヒロインのQちゃんはというと…まあ予想通りかそれ以上に可愛らしいキャラクターだった。無邪気な性格は勿論、感情の起伏が激しい点も愛らしくて、落ち込むときはとことん落ち込み、喜ぶときははしゃぐように喜ぶ彼女を見て幸せでないはずがなかった。そりゃあ主人公もころっといくはずだ。


彼女の虜になり始めてからの主人公と言ったらもう、笑わずには見ていられない。肩にぬいぐるみを乗せて登校したり、夕日を見ながら「当たり前」について考えてみたり、まるで人が変わったような行動をする。そんな彼を見てまあ少し笑いつつも良い変化だなと思ったし、幸せそうな主人公を見ていて悪い気分になるはずなどなかった。



中盤以降でルナワールドとは何か、また彼女の正体について語られるわけだが、これが結構面白くて作品の見方も大きく変わった。「エンジニアによって…」と言っていたのでバーチャルの存在もしくはAIだと決めつけて読んでいたが、そうではなかったわけだ。「作り出された」のではなく「生み出された」と言った意味が繋がっていくのが気持ちいい。


彼女が人間だとわかると、夕日を眺めていた時の会話も輝きを帯びてくる。彼女はただ知らなかったわけではない、知りたくても知ることができなかったわけだ。

 「たくさんの美しい景色と、たくさんの美味しいものを味わって、そしてお友達とたくさんおしゃべりして…」

毎日同じ景色しか見られず、チューブのご飯しか食べられず、そしていつもひとりぼっち。そんな日々を送っていた彼女があのような台詞を口にしたのだと胸に来るし、彼女の事を一層愛おしく思うようになった。


なのでまあそんな彼女が救われるという作品の着地点自体は良いと思うし、そこを否定する気はない。ただ、そこに至るまでの進め方があまり好みではなく、正直もっとストレートな流れで締めてくれても良かったかなと思う。起伏の生み方が雑というか、テンポの速さも相俟って凄くチープなものに見えてしまったのだ。



といった感じで多少引っかかる部分はあったが、恋愛描写とヒロインの設定に魅力を感じたので総合的に見るとそこそこ好きな作品だったかなと思う。また、サブヒロインではあるがミャウちゃんが非常に私好みだったので、そこも加点要素になる。欲を言えば彼女の過去なんかも詳しく知りたかったが。何かしらの形で彼女の物語も見てみたいものだ。