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asteryukariさんのクナド国記の長文感想

ユーザー
asteryukari
ゲーム
クナド国記
ブランド
Purple software
得点
69
参照数
1191

一言コメント

世界観のわりに話がこぢんまりとしていたのは残念に感じるが、心躍る瞬間はぽつぽつとあったり、またお気に入りのキャラクターもいたのでそこそこは楽しめたかなと思う。

**ネタバレ注意**
ゲームをクリアした人むけのレビューです。

長文感想

物語の舞台となる国「カント」は総人口800人の能力者が暮らす地であり、1000年前に突如現れた金属生命体「鉄鬼」との戦いにより、人も文化もくたびれていた。そんな地に何とか希望と幸せを与えようと動き始めたのが主人公こと「信」。

導入部分を少しプレイして感じたのは設定的な面白さであり、能力者が当たり前に存在する世界観は勿論の事、英雄と黒神の戦いやその影響など過去の出来事に関してもそそるものがあった。また、主人公に関してもだいぶ特殊なタイプであり、ただ寝ていただけでなく、鉄鬼と深い関係にあるというのも少年心をくすぐってくる。

少年心といえば「八剣」と呼ばれる実力者が集う組織なんかも惹かれるものがあって、そこに属するための手段等が語られる際には常に目をキラキラさせながら文章を読んでいた。皆が仲良しこよしというわけでもなく、いつでも内部分裂が起きそうな感じがとても良い。

また、ヒロインについても愛らしい面々が揃っており、中でも二之神こと茜と葵は私の心をがっちりと掴んでくれた。単純に見た目が好みな事に加えて、平和に穏やかに生きようとしている人物たちの中では唯一個性的だったので、彼女達を見ているのは楽しかったし、彼女達のルートが用意されていることも嬉しかった。

で、最後までやり切った感想としては全体的に少し物足りなかったかなぁと。いくらでも面白くなりそうな世界観を用意したわりにどのルートも控えめな内容で、盛り上がり所や良いなと感じる部分がないわけでもないが、そこに力を入れるのかと思ってしまう瞬間が多々あった。

ただまあ、冷静になって振り返ってみると本作は戦いが終わった後の話なので、こうなってしまうのも仕方ないのかなとも思う。その辺のことも込みで個別ルートごとに感想を述べていく。





●優里ルート
怪力の能力しか持たない少女のお話であり、主人公のお世話役こと優里ちゃんを主人公が鍛え上げていく。優里ちゃんは序盤からまあ可愛くって、主人公が可愛いを連呼するのも理解できる。自分みたいなツンデレ好きにはたまらないキャラクターだった。

鉄鬼はおろか並みの能力者と対決したって勝つことは難しい。そんな少女が文字通り泥塗れになりながら努力で自身を鍛え挙げていく光景は眺めていてとても気持ちがよく、気付けば応援していた。だからこそ、あんな能力頼りの小娘はぶちのめしてほしかったが…まあ序列一位なので仕方ない。

そんな具合で中盤辺りは結構好きだったのだが、終盤に関しては正直、否定的な感情を抱いてしまった。父親と娘の物語、確かにそれは自分好みのお話ではあるのだが、今までの過程を経てそれで締めくくるのは少し…お茶を濁されたように感じてしまった。個人的にはもっと話を広げてほしかったなと。



●茜&葵ルート
最強の座を求め戦いを欲する狂犬コンビの話だけあって、他と比べると戦闘描写も多めな印象を受けた。私としても派手にドンパチやってくれるのは嬉しくて、そういった意味でもこのルートが一番好きだったかなと思う。シナリオの出来はさておき。

特に中盤辺りの死鬼との戦闘なんかはガチガチのバトルパートになっていて、一度敗れてから再び挑むという流れも良いし、倒し方も厨二要素全開でつい笑みを浮かべてしまった。身内同士のじゃれ合いではなく、命を懸けた戦い。こういうのが見たかったのだ。

しかし終盤は主に双子とのイチャイチャがメインとなり、鉄鬼と戦う事もなくなっていく。挙句の果てには過去の人間を救おうとする話が主軸となっていくので、疑問符が頭の中を飛び交う事となる。いや、確かに過去は大事だけれど、そこに力入れるか?と。戦いの中で牙を光らせていた狂犬たちが、いつの間に舐めることを得意とする子犬になっている事実にただただ涙した。



●春姫ルート
カントを束ねる最高権力者であり、看板ヒロインの話だけあって期待値は結構高めであった。鉄鬼とはどう決着をつけるのか、また夏姫とはどういった存在なのか。そこら辺に着目しながら読み始めた。

読んだ感想としては他ルート違って最後まで緩急があるのはいいが、終盤は結構ぐちゃぐちゃしてしまっていたかなと。それでいて最後は綺麗に締めようとしていたのが…少し無理矢理に感じた。春姫が空気、場面によっては障害物になってしまっているのも痛い。

ただ、思っていた以上に夏姫様に焦点を当ててくれたのは嬉しく、黒神との戦いの裏事情などを経て彼女というキャラクターが肉付けされていくと、ますます彼女の事を好きになった。双子ルートの最後にどうして名前で呼んでほしいと頼んだのか、気付いていたものの、きちんと明示されていたのはやはり嬉しい。





といった感じでやや不満多めで感想を書いてきたが、所々に良いと感じる場面があったのは確かだったので、ある程度は楽しむことができたのかなと思う。
次回の新作も楽しみにしています。