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asteryukariさんの愛病世界Ⅴ 全てが愛に至る-Euphoria-の長文感想

ユーザー
asteryukari
ゲーム
愛病世界Ⅴ 全てが愛に至る-Euphoria-
ブランド
東堂 前夜
得点
93
参照数
135

一言コメント

苦しくて、切なくて、泣きたくなるほど優しい世界をありがとう。 そして、彼女の願いを叶えてくれて本当にありがとう。

**ネタバレ注意**
ゲームをクリアした人むけのレビューです。

長文感想

愛病世界シリーズ最終作となる本作。前作「象牙の塔」のラストにて哀病の真実が明らかになり、今までへーメラーのエースとして皆を引っ張ってきた欺人が反旗を翻すという衝撃的な展開を迎えた。欺人はどうなるのか、また世界は、物語はどうなっていくのか。本当に気になる引きだった。

そうして早く続きが読みたいという気持ちと、もう終わってしまうんだという寂しさを抱えながらいざ読み始めたわけだが…もう本当に面白かった。はじめから何も疑ってはなかったけれど、それでも堪え切れない思いがあったし、局所で滝のような涙が流れた。ここから主に印象的なシーンについて感想を述べていきたいと思う。

読み始めてまず嬉しかったのがどこか懐かしいシステムを踏襲してくれている点。そう、愛病世界シリーズ一作目の「ゼーメンシュ」に近い作りになっていたのだ。流石にあの頃のまんまではないものの、移動パートなんかは本当に懐かしくて、内容的にも深く関わってくるのでやはりこだわったんだろうなぁと。こういったちょっとした工夫が凄く嬉しい。

序盤は悪役に徹するべく、大量のヒュプノスを虐殺しようとする欺人をヘーメラーの皆で止めようとするわけだが、前作のラストで欺人の気持ちを知っているからこそ素直にヘーメラー側を応援するだなんてことはできず、複雑な心境でプレイしていた。ずるいのが話の合間合間に入ってくる人魚世界の回想で、あれが流れる度に胸の奥を締め付けられるような思いにさせられる。

そして、己の存在が害悪であることを示すため、また自身の逃げ道を潰すために欺人によるヒュプノス虐殺の儀が始まるわけだが…これが本当に辛い。何が辛いって、それは勿論、別世界の舞との再会である。いずれ陰から出てくることはわかっていたし、その結果だってわかっていた。それでも、あの歌戦で選択肢を選び続けるのは心が折れそうになる。最後の「どうか幸せで さようなら」なんかはもう…色合いが絶望しかなくて、すぐには決定ボタンを押せなかったほど。

後に海内が拾う事となる真珠の付いた十字架のピアスも終盤部分及び『記憶:想い出、のような』を読んだ上で見返すと辛すぎる。本当に何もかも捨てて悪に徹していたわけだ。



序盤はUB世界の出来事を描くと同時に、ヒュプノス収容施設でのことも書かれており、そこでは豪傑の過去に関する物語を読むことができる。これがまたよく出来ていて、なぜ豪傑の右目は開いたままなのか、どうして本人は『呪い』と呼んでいたのかが明らかになる。

その理由がまあ理不尽の塊みたいなもので、怒りと悲しみが同時に押し寄せてくるような複雑な心境だったが、それ以上にセッカの優しさと強さが胸に沁みてきた。最終作で出てきたキャラクターなだけあって、彼女の事を理解できるか、好きになれるか少し不安だったが、そんな心配をする必要はなかった。真っ直ぐに豪傑を想う彼女を見て、見事に心が揺れたし、あの二人がようやっと結ばれた事実を前に泣きそうになってしまった。

また、収容施設の出来事ではギャグ要素も多分含まれており、そういった意味でも読んでいてとても面白かった。特に豪傑がセッカを救うために右目の時間を動かすシーンは笑わせてもらった。何に笑わせてもらったかは言うまでもないがサイコキラーの発言である。何が眼球保全運動派だ、いついかなる状況でも眼球愛に溢れた真っ直ぐ過ぎる才華様を見て笑いなど堪え切れるわけもなかった。


中盤に差し掛かると欺人と結代の記憶、つまりは1600年前の出来事がようやく語られるわけだが、これまた容赦のないお話が描かれていて、相変わらずこの作品は安心して読ませてくれないなと。特に読んでいてキツかったのが信じていた人々に裏切られていく部分であり、結代が人間たちに躊躇いがない理由も理解できてしまった。あの時点では両親が殺されていることを知らないのがせめてもの救いだろうか。


そして、最終決戦について語っていくわけだが…もう本当にすべてが詰まっていた。決戦前夜のクリスマスパーティの時点で既に泣きそうになっていたが、あくまでそれは前菜であると、そう言わんばかりの展開が待ち受けていた。涙のダムが最初に決壊したのがエクリプス世界での結代と欺人のやりとり。

「あの人魚のッ...
 舞との約束を、破るのか!!?
 幸せになるんじゃないのか!!!」
「この世界が、大好きなんだよ…!!
 皆、もう、これ以上──
 傷つけたく、ないんだよ…」

結代の欺人を想う気持ちと、欺人の世界を想う気持ちに圧倒された。海内の台詞も中々に沁みてくるが、個人的には結代の台詞ががつんと来た。初めてにして最古の友人の言葉は、それほどまでに重く熱かった。


欺人の正体が英雄豪傑ではない事はわかってはいたが、彼のもう一人の友人として連れ添った彼の名前が”無双”だった点には少なからず驚かされた。それを踏まえて海内と欺人の関係を見つめ直すと、やはりただのパートナーではなかったんだなぁと。正装も古今によく似ている。



そして、ヘーメラーとして欺人が最後に選んだ答え、これが本当に素晴らしかった。答え自体も素晴らしいけれど、最後のパーティでのやりとりも素敵で、モコと才華は特に印象的。ようやっと博士と呼ぶようになったあの頃のモコちゃんが見られて、心のモヤもすっきりと晴れた。

で、集合写真は…思わず声が出てしまった。集合写真を撮るという展開自体も良いけれど、それだけではない。どこかで見たことのある光景なのだ。そう、ゼーメンシュと同じ。それを瞬時に理解すると同時に、ぶわっと涙が出てきた。ああ、「全てが愛に至る」とはこういうことなんだなと。

迎える結末も選んだ答え通りの、感動を冷ますことのない素晴らしいもの。個人的にエピローグで目覚めることがなかった点も嬉しくて、切ないけれど、実にこの作品らしい素敵な終わり方だなと。エンドロールを眺めながら多幸感に包まれていた。そう、それこそ満面の笑みで終わる…はずだった。あのタイトル画面を見るまでは...。

あんなのズルい以外の言葉が見つからない。舞のあの涙は、やはり”頑張ったね”の涙なのだろう思う。あとは彼女の願いを叶えてくれたことに対する喜びだろうか、考えれば考えるほどにこっちまで目が潤んでしまう。



結局、最後まで感情をぐちゃぐちゃにしながら読み切ってしまった。こんなにも心揺さぶられる作品をプレイしたのは本当に久し振り。それこそ数百作品振りとかそのレベルだったのではないだろうか。このような作品に出逢えたことにただただ感謝したい。