これまでのシリーズ作品と比較するとだいぶ落ち着いていると、そう思っている時間もあったが、そんなことはなかった。相変わらず容赦のないエッジの効いたものを用意してくれる。そして私は、それが本当に嬉しい。
シリーズでは珍しく序盤から敵の襲撃を受けることになる。そして、緊急トラベルを行った先に辿り着いた場所『象牙の塔』こそが物語の舞台であり、悲劇の始まりの場所となっていく。塔とは言ってもただの塔ではなく、登りつめていくと気が狂ってしまうというのがポイントで、100階まで登った者は狂気に陥って自殺してしまうと言われている。100階に何が待ち受けているのか、とてもそそる導入だった。
中盤辺りまでは仲間探し、塔の探索がメインとなっており、話はなかなか動かない。自分達のみに何が起きたのか、他のヘーメラーは大丈夫なのか、いつぶっこんできてもおかしくないシリーズなだけに緊張感だけは途切れなかった。ワールドトラベルのスペシャリストとも呼べる(欺人を除いた)海内すらも塔内ではトラベルできないという危機的状況が逆にわくわくする。
ある程度仲間が集まっても油断は出来ず、案の定、幹部クラスの狩人たちと交戦状態になる。ただまあ、そこからの展開は驚くほどに平和で、殺すか殺されるかの選択肢に新たな折衷案が追加される。狩人を捕虜するだなんて内部に爆弾を抱え込むような提案をしてくれたやつがいたのだ。無論、サイコキラーの提案である。本当に此奴は立派な主人公だ。決めてが赤い瞳の頼みな点も含めて良い。
モコとのことも思った以上にスムーズに進んでいくので、正直、中盤以降はシリーズの中でもかなり平和的だったなと思う。象牙の塔の仕掛けも気が狂う塔と言うわりにはユニークなものだし結局、やばいと忠告を受けていた90階までもさくっと辿り着いてしまい。全てが一件落着して帰還することになる。なので四章は哀病の解明や日常に重きを置いた話になっていくのかなと勝手に思っていた。シリーズのエグさを完全に忘れていたのだ。
四章から始まる悲劇を目の前にして、笑顔でいられた者などいないだろう。他作品ならば何だかんだちあきを助けに行ってハッピーエンドになるのだろうと、それを信じることができただろうが、このシリーズはそんな甘いものではない。いくら欺人が神と崇められていても、海内の協力があっても彼女が助からないだろうなと。そして、本当にその通りになってしまった。こういった所をしっかりやってくれるのは流石だなと。悲しくて仕方はないが...。
悲しいと言えばちあきを救うべく、90階から100階にかけて欺人に襲い掛かってきた幻覚は本当に辛く悲しいもので、それまで流す予兆なんてなかった涙が一気に溢れてきた。結代や海内との会話で”彼女達”の事を今でも愛し続けて、囚われ続けているからこそくるものがあった。「人魚が寂し気にこちらを見つめている。」だなんて、そんなのやめてくれ。
そして、哀病の真実に迫る『事の終わり』は…衝撃だった言わざるを得ない。その事実も、彼が選んだ答えも…。
世界の敵として立ちはだかることになった彼とどう決着をつけるのか、楽しみと寂しさが入り混じる。