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asteryukariさんのサイケデリック・ウーファー -Coloration-(愛病世界III)の長文感想

ユーザー
asteryukari
ゲーム
サイケデリック・ウーファー -Coloration-(愛病世界III)
ブランド
東堂 前夜
得点
87
参照数
76

一言コメント

サイコキラーが送る愉快痛快な物語。彼に魅力を感じてしまったら最後、あの怪しげな瞳から目が離せなくなる。

**ネタバレ注意**
ゲームをクリアした人むけのレビューです。

長文感想

前作では敵として立ち塞がった男『才華 蓋世』が、眠り病との戦いのため(自身の我欲のため)にヘーメラー組員となった。そして彼のヘーメラーとしての初仕事が今作だったわけだが…もう相変わらずのサイコっぷりて、ますます彼の事を好きになってしまった。恐らくこの感想では彼に関する事ばかりを語っていくと思う。



まず、今回の物語の舞台となる地『カジノ・サイケデリア』について。
サイケデリアには『サイケデリア三原則』と呼ばれるものがある。

① 真剣にリスクを楽しむこと。
② パフォーマンス性を持たせること。
③ 誰も彼もがエンターテイナーであること。

これを見た時に思わず吹き出してしまった。こんなに”彼”にぴったりな世界を用意してくれるのかと、もうこの瞬間から既に面白くなっていくことを予感させてくれる。否、面白くならないわけがない。

命を平気で懸けるような野蛮なカジノだとわかっても、彼は焦る事なんてことはなく、ただただ不敵な笑みを浮かべる。さあ、これからショータイムが始まるのだぞと言わんばかりの強気な態度にわくわくが抑えきれなくなった。

ワードウルフにて『瞳』を懸け始めてからはもう彼の独壇場であり、やがてルーザーとなった浮石が逃げ始めてもそれはそれでまた一興だと余裕な態度を見せる。そして、追い詰めた際には感極まってかこんなことを口にする。

「きみの瞳に会いたかった!こんにちは 浮石くん!」

こんなの笑わないはずがなくて、増援を呼ばれた際も「無料でドールアイが手に入る!」と興奮し始めたり、もうお腹が痛くて仕方なかった。敵の数え方も人単位ではなく、瞳単位なのが本当にツボだ。「なんとしても6個はいただきたい」じゃないぞまったく。

二章で初めて絶命の危機に瀕した時も、ようやく巡り会えた赤い瞳に歓喜するばかりで、撃たれて血だらけになっているにもかかわらず満足げな表情を浮かべていた。こんな真っ直ぐ過ぎるサイコキラー、味方でも敵でも恐ろしい。お偉いさんたちが仲間にするのを拒む気持ちもよく分かる。



といった感じでサイコキラー劇場は充分以上に楽しませてもらったわけだが、それだけでなく、彼の人間性に迫るエピソードまで用意されていた。幼い頃から人間に興味を持てず、表面上親しい人間ができても『コップ』呼ばわり。そんな彼が初めて人間に興味を持った、もっと言えば一目惚れしたのが『ウェヌス』だったと。だからこそ、人間の良さを教えてくれた存在であるウェヌスを、赤い瞳を侮辱することは許されないわけだ。

そんな彼が並行世界とは言えウェヌスと再会することになったらどうなるか、まあ予想は出来たが当然、全てを投げ打ってでも守ろうとする。しかし、それで彼の物語が終わる事はなかった。
 
 「・・・この世界のウェヌスの瞳に。なんら─興奮しなかったんだよ」
 「他でもない・・・きみ自身を・・・。心から・・・愛していた・・・」

今までは赤い瞳を愛していたと言い続けていた彼女だが、そうではないと。瞳ではなくあの世界のウェヌスを愛していたのだと。そう言ってくれた。これらの台詞が見られただけでもう心が震えてしまったし、初めて人間らしい一面を見せた彼の表情は素敵だった。おまけにウェヌスの瞳以外の、ヘーメラーたちの瞳もなかなか悪くないだなんて言い始めるし、本当にどこまでも良いキャラクターになっていく。

終盤になると不完全な自分を認めてくれた、気付きを与えてくれたサイケデリアの世界を「愛している」とまで言ってのける。瞳しか愛せなかったサイコキラーが”世界を愛す”と言ったのだ、これを見て何も感じないはずもない。

そして、そんなサイケデリアを愛する彼が選んだ『ウーファー』としてのもう一つの名前が…本当に綺麗な幕切れだったと思う。



他にも欺人のゼーメンシュの出来事を彷彿とさせるような言動の数々や、霖雨と才華の関係性、それから伽藍の謎めいた発言等々、語りたい事はまだまだ尽きない。ただ、振り返ってみて思うのは、やはり本作は才華 蓋世という男の物語だったなと。キャラクターの魅力をそのままシナリオに反映してくれた事を大変嬉しく思う。