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asteryukariさんのMonkeys!¡の長文感想

ユーザー
asteryukari
ゲーム
Monkeys!¡
ブランド
HARUKAZE
得点
83
参照数
588

一言コメント

本当に読んでいるだけで元気が湧いてくるような、純粋な楽しさで包まれた作品でした。くすっと笑えて、ほろりと涙が流せます。

**ネタバレ注意**
ゲームをクリアした人むけのレビューです。

長文感想

恐らく今年一番楽しみにしていたと言っても過言ではないであろうHARUKAZEさんの新作であり、ライターさんの書くテキスト、物語を好いている自分としてはこの日がくるのをまだかまだかと待っていました。


今作は主人公が女装し、超・お嬢様女子校に潜入するということで、あらすじを読んですぐピンときました。日常生活におけるハプニングなんて山ほどあるだろうし、まさにライターさんに合った舞台を持ってきたなと。潜入理由が「友達と過ごした場所を守るため」という点も凄く良い。


そして実際にやってみると思った通りの日常が楽しい作品に仕上がっていました。流石というか案の定というか、一癖も二癖もあるキャラクターが揃っていて、数十分読んだ頃には止まらなくなっている。ああ、やっぱりこの人の書く日常劇は面白いなぁと、共通パートの時点でそれなりの満足感はありました。キャラクターについては後々、個別に触れようと思います。


また、珍しい演出として漫画のような形で進行していく場面が無数に存在していました。これが自分的にかなり気に入っていて、実質前作である「マルコと銀河流」のファンディスク(DLコンテンツ)をプレイした時から良いなと思っていたので、そこに更に力を入れてくれたことには感謝するばかりです。コマ区切りにすることで立ち絵だけでは表現できなかった動きが生まれるんですよね。バトルシーンも印象的ですが、私は序盤にカラスが爆笑するシーンがとても頭に残っています。


あとは話の合間に挟まれる「この女子ムリ」なんかも良いですね。過去作で言うところの「ネコのお考え」的なポジションでありますが、あちらほど力が入ってはいません。しかしながらくすっと来るか来ないか絶妙なラインを攻めてくることには変わりなかったですね。楽しみにしていると言ってしまうと言い過ぎですが、「あ、そろそろ来るかな」くらいの気持ちで待っていたりはしました。


とまあ共通部分の話はこの辺にしておいて、そろそろ個別√ごとの感想でも述べていこうかなと。どれも等しく面白いとは言えませんが、どれも何かしら琴線に触れるような、素敵なやりとりが仕込まれていたように感じます。


○メバチ
トップバッターは元気でちょっと危ないメバチちゃんです。この子は何と言うか…同人時代の十鳩作品をやっていると様々な想いが込み上げてくるキャラクターでしたね。シナリオも少し違うようで内包されている温かさは同じで…また再プレイしたくなりました。


猿吉が活躍するだけでなく、周りのキャラクターを立てるような作りが非常に気に入っています。硝子が自転車で追いかけるくだりは勿論、ぐっぴーと仲直りする場面も好きですね。彼女がなぜ「絶交」と表現したのか、それを考えるだけで心が温まります。


そして、周りの温かさを感じた上で最後のアイとメバチのやりとりを見るとまあ涙がじわじわと込み上げてくるわけで...。テンポ的に少し違和感を抱いたりする場合もあるかもしれませんが、メバチの物語としてあれは必要でした。メバチの「たいせつにする。たいせつに。たいせつに」が本当に沁みてきます。平仮名なのが優しくてすごく良いです。


○霧灯
女子校には必ずいるタイプといった感じで、個人的にあまり得意なキャラクターではないのですが、ユニークな発言を度々してくれるので、気付けば自然と好きになっていましたね。癖の強いヒロインばかり故に何かと振り回されがちな猿吉ですが、霧灯と一緒になるとまた別種の焦りが生まれているのが面白かったです。

猿吉の見せ場というか、目立ち方がかなり好きで他√と比較してもその気持ちは変わりませんでした。霧灯が猿吉のどこに惹かれたのか、また霧灯の母がどうしてファン0号になったのかがよくわかります。自分を持っていない人間という設定が生きていましたね。

あとは第三者として助言及びサポートをしてくれるガラスも良いキャラしていましたね。自分の人形を見てキャーキャー叫んでいるだけではなかったわけです笑。


○硝子
攻略が難しそうだけれど、案外一番ちょろかったりする金髪娘。着々と系譜が継がれていて、つい笑みを零してしまいました。本当に、自身の√に入った途端に甘いじゃ片付けられないくらいぐてんぐてんになっていくから面白い。

このルートで特に良かったのは猿吉が硝子を連れ出すシーンですね。しがらみから引っ張り出して、ガラスの靴ではなく運動靴を穿かせる。そのお洒落すぎる発想に心を射抜かれてしまいました。涙を拭くところまで含めて完璧です。キザに感じたり、臭く感じたりしないのは猿吉くんだからでしょう。本当にやる時はやってくれる男です。

あとはやっぱり軟化しまくりの硝子が可愛かったですね。愛が深まるにつれて発言が重くなっていく感じがたまりません。猿吉の押されたら押し返せない性格が上手く生きていました。ぎゅっぎゅ星人のくだりが一番好きです。


○カラス
冷静沈着なクールな女の子と思いきや、頼りになるツッコミ役であり相棒でもある彼女。唯一の常識人ヒロインとして、状況に左右されず常に勢いのあるツッコミをしてくれるのがツボでした。清楚な見た目に相反して、毒や暴言を吐きまくる彼女を見て好きにならないわけがないです。

生きることを諦めていた少女が猿吉と出会い、生きたいと思うようになる。それをごくごく自然に、しかも楽しく書いてくれたのが非常に嬉しかったです。作品にとっての主人公は猿吉ですが、カラスの視点に立って物語を見返してみると凄く胸が温かくなります。改めて「カラス」という動物のチョイスが素晴らしいなと。

終盤は凄くあの人らしいというか、自由な展開になっていましたが、作品の主義主張は最後まで変わっていなかったのでホッとしましたし、そういうところが好きなのだなと。





総じて私好みの作品でした。読み手をどうこうする以上に書き手が楽しんで書いている、それが一番良かったですね。終わってしまった今は寂寥感でいっぱいですが、次作への想いを馳せて静かに待ちたいと思います。たのしい時間をありがとうございました。