決して仲が良いとは言えない不安定な関係から、やがて誰もが認めるような恋人になっていく二人を見てとても心が和んだ。ミステリー部分はかなり薄味なので、ジャンル通りあくまで「百合恋愛ADV」としてプレイすることをおすすめする。
本作のプレイしようと思ったきっかけは二つある。一つは単純にその美しいグラフィックに惹かれたからであり、タイトルにもあるように紫陽花の咲き誇る「梅雨」を舞台にしている点も実にそそる。恐らくは発売の時期も合わせてきたのだろう、こういったちょっとした工夫が嬉しい。
惹かれた理由の二つ目はジャンルが百合恋愛ADVであったこと。女学園で繰り広げられる女の子同士の恋愛劇となれば興味が湧かないはずもなく、どういった恋愛を見せてくれるのか、また二人はそんなタイプの女の子なのか、始める前から気が急いて仕方なかった。
読み始めてみるといきなり告白シーンから始まったので少したじろいでしまったが、読み進めていくと、それこそが本作の大きなコンセプトなのだと理解できる。脅迫状をきっかけに付き合い始めた二人はまあぎこちなくて、恋人はおろか友達と言うのすら躊躇ってしまうようなぎこちない関係だった。しかも汐里はぞっこんなのに、海琴はというと全く気持ちが向いていないから辛い。
ただ、二人の関係がそんな不安定なまま終わるなんてことはなく、汐里のいたいけな姿に海琴も惹かれていき、やがてはそれが恋心に変わっていく。けれどもそのままゴールインするわけではなく、再びすれ違っていくのがじれったくもあり、面白くもあった。良かったのが汐里視点と海琴視点を交互に見せてくれた点で、二人の心情について丁寧に描かれていたなと思う。
そして、はじめはなんとなく付き合った二人が、お互いの気持ちをお互いに伝えることで改めて恋人になっていく光景は実に美しかった。
海琴は他人に対し「私の容姿しか、見てもらえなくて」と言っていたが、彼女自身も他人に本当の自分を見せようとしていなかった。そんな彼女が自らを「空っぽ」だと表現し、告白したのだと思うと、彼女自身の成長も感じることが出来てなお嬉しい。
といった感じで百合恋愛に関しては十分堪能させてもらったわけだが、一方でミステリーの方がおざなりになっていたのは少し気になったかなと。まあジャンルが百合恋愛ADVなので深くはツッコまないが、もう少し探ってほしかったかなと思う。海琴との関係と最後の会話を見るに恐らくは彼女が犯人なのだろうとは思うが。
終わり的に今後もこのシリーズは続いていくのだろうし、そこで犯人の目的、動機等が詳しく語られるのかなと思うので、次作が出た際はぜひ購入したい。Steam限定でしかも非18禁の作品ということで、知名度はやや低めになってしまうかもしれないが、何とか頑張っていってもらいたいものだ。