ErogameScape -エロゲー批評空間-

asteryukariさんの下戸勇者 ~酒は飲まねど酒池肉林!~の長文感想

ユーザー
asteryukari
ゲーム
下戸勇者 ~酒は飲まねど酒池肉林!~
ブランド
キャラメルBOX いちご味
得点
57
参照数
2083

一言コメント

そのぶっ飛んだあらすじに惹かれてつい購入してしまったが…低めの期待値すら下回る作品であった。読み進める度に笑顔が消えていくあの感覚はもう味わいたくない。

**ネタバレ注意**
ゲームをクリアした人むけのレビューです。

長文感想

酒が飲めない下戸故に、しかるべき場所で仲間を募ることも出来ず、ただ魔王を倒すという信念のみで自らを鍛え上げ、一人旅をしていた主人公。そして、努力の末に手にしたものが圧倒的な力であり、本来はレベル「100」が上限であるにもかかわらず、彼の場合はレベル「65535」であると。ここまではライトノベルやネット小説でも探せばありそうな設定だが、その先がかなりぶっ飛んでいる。

なんと魔王は既に別の勇者パーティに倒されていたとのこと。そして、彼の次なる目標は女だけのパーティを組み、世界を漫遊する事だという。公式サイトを読んでいて笑ってしまったのは本当に久々だったし、そうやって私に笑いを与えてくれたこの作品の事がとても気になった。

そして恐らく…いや九割方面白くないだろうなと感じつつも、私はこの作品を手に取ってしまったのだ。

端的どうだったかと言うと間違いなく「クソ」だったのだが、ただクソクソ言っていても仕方がないので、精一杯褒めながら感想を書いていく事にする。

まずはテキストについてだが、これがなかなか酷い。ツッコミ所がありすぎて…というか違和感なく読める部分が少なすぎて、どこを例に挙げようか迷ってしまうのだが、読んでいて一番きつかったのは会話中にパラメータの話を持ち出してくる場面だ。

「女戦士のこうげき」などコマンドバトルを文章でやるシーンはまだ許せるが、いきなり「すばやさが少なくとも255はある動きだった。」などといった謎情報をぶち込んでくるのは勘弁してほしい。世界観に合わせようとしたのは何となく理解できるが、あれを読み続けるのは中々きつかった。ガチガチの厨二モノであればハマれるのだが、別にそういったタイプの作品でもないので、やはり浮いていたなと思う。

次に主人公について、物語がいきなりヒロインのレイプシーンから始まる事からもわかるように主人公は決して正義の味方みたいなタイプではない。私利私欲のために動き、闘うアリスソフトの某主人公みたいな感じだ。顔もどちらかと言えば悪人顔だし、言動も「たぶん」や「きっと」を多用する癖に妙に自信ありげだったり、意味の分からない厨二的な問いかけをしたりとかなり危ない。

ただ、その危なさは同時に面白さにも繋がっていて、序盤は痛々しく恥ずかしい彼を見て大笑いしていた。こんなにも濃い主人公は久しぶりだなと、この作品をやってみてよかったとすら思った。しかしそれは所詮、序盤まで話であり、話が進行していくにつれてその笑いは次第に苦しみへと変化していく。

地図上の場所を選択し、その地で女を負かすことで物語が次に進んでいくのだが、戦いと呼べるものはほとんどなく、またシーンが凝っているわけでもない。出てくる選択肢にもあまり意味がなく、女の子も特別可愛いわけでもないのでまさに虚無な時間を過ごすことになる。加えて恐ろしい事にこの作品はボリュームもフルプライスに見合ったものとなっているため…面白くもない奇天烈な発言を繰り返す主人公とそれを神のように崇めたてるパーティ一同の姿をしばらくの間は見続けることになる。一言でいえば地獄だった。

終盤なんかはもうやりたい放題で、パーティを解散したと思ったら10クリック後には再結成していたり、疑似ペニスを使い皆で連結し合うことで敵を威嚇したり、それから男根原理などなど...。物語を捨てギャグに全振りしたとした思えない場面がいくつも…というか全部そうだった。

もし初見でそれら場面を見たら笑えるかもしれないが、実際にプレイし続けている身からするともはや精神的攻撃に思えてくる。「いつ折れる?いつ投げるんだ?」とまるで作品に試されているかのような、そんな感覚に陥る。

そして、そんなこんなでクリアした後にまず思ったのは「終わってよかった」だった。お金を出して時間をかけてプレイしているのだから、楽しもうと思って読んでいたはずだったが…正直な気持ちが出てしまった。ちなみに次に浮かんできた言葉は「ミスった」。

とまあこんな感じでまあ褒めようと思っても褒められなかったわけだが、冒頭にも述べた通り、主人公の言動は狂っていて面白いので、そこをいかに楽しみ続けられるかが勝負の分かれ目になってくるかと。あとはあらかじめクソだとわかっている上で読むのであればそれなりには良いと感じるかもしれない。