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asteryukariさんのシンスメモリーズ 星天の下での長文感想

ユーザー
asteryukari
ゲーム
シンスメモリーズ 星天の下で
ブランド
MAGES.(5pb.)
得点
70
参照数
1992

一言コメント

メモオフシリーズの伝統が受け継がれてはいたものの、故に良かったかというと微妙なところ。もう少し普通の恋愛劇を読んでみたかったというのが正直な気持ちだ。

**ネタバレ注意**
ゲームをクリアした人むけのレビューです。

長文感想

2018年の8作目をもって歴史に幕を下ろしたメモリーズオフシリーズ。その後もSNS上のプチイベントや20周年イベントなど、シリーズの終わりを惜しむファンの期待に応えていたが、ついに新作を出してくれた。それが本作「シンスメモリーズ」である。

メモオフシリーズはファンディスクも含め全てプレイ済みなので、この作品の制作が発表された時は驚いたし、非常に興味をそそられた。ナンバリングではなく、完全なる新作であると。その事実に良くも悪くも目を奪われたのだ。

そして、やってみた感想としてはどこか懐かしい切なさと痛みを伴う物語が描かれたなと思う。確かにコンセプトはしっかりと受け継がれていたのだ。ただ、それが物語を面白くしていたかというと微妙で、個人的には悪い部類に入る作品だったかなと思う。「楽しいだけではない恋愛の側面」に傾きすぎてしまったように感じる。

メモオフ一作目や二作目も決して明るい雰囲気の作品ではなく、どちらかと言えば読んでいて苦しくなる時の方が多かったが、それでもしっかりと明るく楽しい時間は存在したし、苦しい過程を超えた先には涙が零れてしまうほどの感動が待ちかまえていたりもした。しかしながら本作にはそれがなかったのだ。

ノリで付き合い始めて、付き合い始めた後はひたすらいちゃいちゃラブラブな日常を送る。そんな作品にしないという意思表示は立派であったが、用意された話は決して面白くはなかったので、それならばいっそのこと楽しく明るい恋愛の方に舵を切っても良かったのではないかと思う。ヒロインに関して言えば愛らしい面々が揃っていたので、そうしてくれた方が良かった。

ヒロイン以外にも嬉しい要素をいくつか含んでいたので、その辺について個別ルートごとに語っていく。


○ちはや
主人公の幼馴染であり、本作の看板とも言えるヒロインの一人。名家のお嬢様であり、父親は政治家。そんな立場故に陽詩という付き人兼親友が常に傍に居る。しかしながら、高飛車なお嬢様タイプではなく、おおらかで優しい性格をしているため、陽詩を自信と同等だと思っているし、主人公や周りの人間に対してもそう。政に完全無欠のお嬢様だった。途中までは。

旧宅のリノベ計画を進めていくうちに段々と彼女の本質が見えてくる。他人の意見に耳を傾けていたのではなく、自分では何一つ決断できない、人に言われるままに動く、自我を持たない人形である事が露呈してしまう。はじめは陽詩ちゃんが少しヒステリックになっているだけかなと思っていたが、読んでいくと本当に彼女の言う通りのお人形さんであり、それが不快感に繋がっていった。にしても陽詩が辛辣すぎて笑ってしまう。

物語の後半になると少しは症状に改善が見られたものの、今度は政治家の娘という立場故の最悪な行動に出始める。英の事を想っての行動ではあるものの、あの自己犠牲精神はあまりにも不愉快だった。英が激昂するのもよくわかる。本当に何様のつもりなのだろうか。

といった感じでまあヒロインとして好きになることはできなかった。そして、ルートの中身としてもイマイチであり、事件の真実が明らかになる部分及び鍵探しのパートはそれなりに楽しめたのだが、そこから先は特に何も…彼女の事を愛せていればまた違ったのだろうか。


○英
ちはやと同じく看板ヒロインであり、最高の女の子であった。登場してすぐに主人公に暴言を吐き、その後も「監視」と称して主人公の近くを付いて回る。けれども根は優しい女の子であり、不意な一言に顔を赤らめたり、なんだかんだ言いつつもみそら達と仲良くしていたりする。大変に私好みの女の子だった。

これほどまでにツンが多めな子は久々だったのでもうぞっこんの一言。彼女の少しきつい物言いを聞くだけで心が躍ったし、主人公が良い奴だとわかっても簡単にデレたりはせず、噛みつき続けてくれたことに感謝すら覚えた。

話自体はちはやと共通している部分も多いが、ちはやルート以上に重人が屑根性を発揮していたのが印象的。あれを「見込みがある」だなんて言ってしまう忠泰は…。良かったのがヒロインと主人公の関係性であり、物語が進むにつれて弱さを見せるようになる英を主人公が支えるという流れが実に良かった。最後にようやく笑顔を見せるのも満点をあげたいくらい好きだ。

ただ、英を好きな自分としてはもう少し日常生活に重きを置いた部分も見てみたかったなぁと。何気ないデートシーンなんかが用意されていると嬉しかった。ファンディスクが出た際には是非その辺に力を入れてほしい。


○陽詩
共通での人形発言事件で一気に印象が変わったヒロイン。「こいつは変われない」のだと、散々罵っていた彼女だが、彼女も彼女でまた欠陥を抱えていた。ずっとちはやに頼られて生きてきた為か、他人に頼らない癖がついてしまっていた。ただまあ、ちはやとは違い、その辺の問題はすんなりと解消できていたのでほっとした。

で、話としては動画配信者のヒロインらしいというか、テンプレートなものであった。いつも助ける側の彼女が助けられる側にまわるという意味では悪くはなかったのかもしれないが、心が揺れることはなかった。強いて言えばエンドによっては命を落とすなど、中々容赦のないところは良かったかなと。

どちらかが恋人になっても変わらないと、ちはやとの関係を崩さずゴールしてくれたのは嬉しかった半面、崩れていたらどういった物語になっていたのかも気になる。二人から離れてしまったちはやちゃんがどうやって生きていくのか、大変興味深い。


○優梨子
アイドルグループのリーダーであり、他とは系統が違い過ぎてどういった理由でヒロインになったのか疑問で仕方なかったが、読み進めていくと納得がいく。それにしても鷹也くんの影響力が凄い...。

リーダーながらパッとはしない、どこか幼い様子の彼女だが実際そうであり、そこを春玉にも指摘されていた。それもちはやに対する陽詩以上に手厳しい一言を浴びせていたので、つい吹き出してしまった。「甘えるな」なんて台詞がヒロインから出るとは思わなんだ。

そんな甘えた女の子が主人公の支えにより立派なアイドルになっていくのが本ルートの見所。細かい点はさておき話の中身は好みであり、最後に彼女が見せたアイドルとしての選択も中々良かった。ただ、だからこそ少し物足りなさが残ってしまったなと。あそこで終わってしまうのかと、思わず言葉を漏らしてしまったほどだ。


○春玉
何も考えていないようで実はかなりしっかりとした性格をしていたので、そんな彼女と恋仲になるにはどういった過程を踏むのだろうかと、その動きに注目していたのだが…まさかの展開だった。ただ、他のルートの内容がイマイチだっただけに、あの適当さがむしろ嬉しくて、肩の力を抜いて読むことが出来た。深刻な表情で「結婚するしかないヨ…」と言い出す彼女を見て、口角が上がらないはずもない。

話も実にカジュアルで、酒杯探しとは言いつつも、描かれているのは恋人らしいやりとりばかり。また、他のヒロインではあまり見られなかった主人公の家族との会話も多めであり、明るく楽しい気分で読んでいた。藍乃ちゃんの反応が本当にツボだ。

扱い的にはサブだったが、ルートとしての満足度は他以上だったかなと。変にシリアスな展開にせず、最後までヒロインの良い所を伸ばし続けてくれた。





少し不満が多めになってしまったが、楽しめるお話はきちんとあって、また稲穂信くん関連で嬉しい会話(風流庵の事など)もいくつかあったので、それなりには満たされたかなと。何より英ちゃんが最高に私好みのヒロインだったので、駄目な作品だったなんて言えるわけがない。

英ちゃんと過ごす日常メインのファンディスク、待っています。