本当におまけ程度の内容ではあったが、この物語を踏まえて本編を思い返してみると中々感慨深いものがある。
今回、番外物語として追加されたのは「櫻色零落」と「景色蕭然」の二つ。どちらも過去のお話であり、栞奈がどういった人生を歩んできたか、また蕭然がどんな出来事を体験したのかが描かれていた。まあ、過去編ということでボリューム的には一時間もあれば読み切ってしまえるようなものなのだが、読み終えた後に自然と本編をやり直したくなるような、そんな内容だった。
「櫻色零落」の方はかなり短めで大きく目を引く点こそないが、本編で見られた「妹を守ろうとする姉」になるまでの過程が描かれていて、読後は温かさが残った。また、栞奈の心情の変化を描くと共に、絵美の変わらない優しさと無邪気さも存分に描かれて、「ああ、彼女はこの頃からずっと変わっていないんだな」と。本当に良い子で、そして優しい子だった。
一方で景視点で語られる「景色蕭然」はというと…櫻色零落とは相反して冷たくて寂しい物語。読み始めは淡い初恋のお話でも見せてくれるのかなと、軽い気持ちで読んでいたのだが、とても胸が詰まる失恋のお話だった。
このお話の肝はまあ何といっても茜というキャラクターにあるのかなと。昔から少し変わった性格をしていて、とっつきにくい彼女だったけれど何とか彼女について行っていた。そして、彼女もまたそんな景を理解者だと認めていた。振り返ってみるとはじめから不安定な状態だったのだなと。
読んでいて感じたのは彼女自身が大きく変わったわけではないという事。芸能活動を通して手の届かない存在になっていた彼女だが、元からあった自己中心的で自意識過剰な性格は全く変わっていない。だからこそ役者というステージで成功できたのだろうが、それが二人の繋がりを切った根本的な原因だったのかなと私は思う。もし環境が違っても、彼女の性格上いつかは切り離される運命だったろう。景は特別ではないのだから。
自身が特別ではないと自覚しながらも彼女の公演を見に行く景の姿は見ていてとても痛々しくて、無視されてしまうシーンでは思わず目を覆いたくなった。ここの絵の使い方がかなり好きで、距離が空いてしまった事をはっきりと理解した。最後の顔が消えていく演出もたまらない。
ただ、こういった過去があったからこそ本編で栞奈という女の子に出会うことが出来て本当に良かったなと思う。茜とは全然違う、特別ではない女の子。だからこそ繋がった。切ないし辛いけれど、辛いが故に本編の内容をもう一度読み返したくなるような物語だった。
てな感じでまさにアペンドといった内容だった。次に出るのは恐らく新作だろうと思うが今から楽しみで仕方ない。また心温まる素敵なお話をお待ちしています。