続きは大いに気になるものの、心を震わせるお話はしっかりと用意されていて、それも綺麗に幕が下ろされていたので気持ちとしては凄く満たされた。次作も楽しみにしています。
Fateや魔法使いの夜等はプレイ済みながら月姫に関しては触れたことがなかったため、今回リメイク作として発売されたことは純粋に嬉しかった。ただ、リメイク版に実装されているルートは原作の半分以下と聞いていたので、プレイ前は正直、不安の方が大きかったのだが...実際にプレイしてみた感想としては非常に面白い作品に仕上がっていたと思う。
幼い頃に大怪我を負い、それをきっかけに死の線が見えてしまうようになってしまった少年「遠野志貴」が主人公。死の線が見える眼だなんて設定だけでもう少年心をくすぐられ楽しくなってきてしまうし、そんな彼に死の線を見えなくする眼鏡を与えてくれた女性もまた私のよく知る人物だったからもう...開始数時間どころか開始10分で作品に引き込まれた。
そのまま話を読み進めていくと、厳しいけれど兄想いの素敵な妹ちゃんがいたり、これまた綺麗で思わず攻略したくなるメイドさんがいたりと、目移りしてしまうような女性キャラクタ―ばかりが揃っている。しかしながら、そんな彼女達が霞んでしまうほどに「アルクェイド・ブリュンスタッド」というキャラクターは魅力的であった。彼女の事が好きだからこそ、本作を好きになり、また評価していると言ってしまってもいい。
そんな彼女を志貴が衝動的に十七等分にし始めた際は「おいおい、こいつ何してくれるんだ」と、驚き以上にその後のストーリー展開が心配になったが、よくよく考えてみるとあの出来事があったからこそ、アルクェイドが志貴という男の子を意識し始めたのだなと。ヒロインが初対面で主人公に惨殺されるという中々見ない光景だが、その光景こそが彼らの関係の始まりであり、二人にとって極めて重要な出来事だったわけだ。
物語はスタートしてからわりとすぐの段階で分岐し始める。中盤までの敵こそ同じだが共通と言って片付けられるものではないので、ここからはルートごとに感想を述べていく。
☆アルクェイドルート
このルートの魅力は何と言ってもアルクェイドの愛らしさであり、夜の公園で待ち合わせするようになってからの彼女の可愛さといったらもう...。張り切り過ぎて三時間前から待ってしまう健気な彼女を見て悶絶していた。自分を殺してくれるのも助けてくれるのも志貴だけだと、そう言って嬉しそうに笑う彼女は恋する乙女そのもの。
ヴローヴとの戦闘はその圧倒的な演出と策略にも勿論目を引かれたが、それ以上に印象的だったのは彼女が志貴のみならず街をも守り抜いた点。他の人間などどうでもいい、そんな態度だった彼女がなぜそんな行動に出たか。その理由が彼女の口から零れ出た時は思わずにやけてしまった。そこまで彼の事を好きになっていたのかと。
終盤になると彼女の吸血衝動をきっかけに一度は距離が空いてしまうも、距離が空いてしまってもやっぱり志貴の事が忘れらなくて、ついつい屋敷まで来て聞き耳を立ててしまう彼女がまた愛らしくて、状況としては決して楽観的になれるはずないのに、温かさを感じながら読み進めている自分がいた。
「大好き、大好き、大好き!」
これから勝てる可能性の低い、下手をしたら死ぬかもしれない相手と戦うのにこの余裕。満月をバックに空を跳躍する彼女は本当に美しくて、作中でも特にお気に入りのシーンだった。もはや他のことなんてどうでもいいと、吸血鬼を殺すための道具としてではなく、宿敵を討つためでもない。ただ好きな人を守るために戦う、そう決意した彼女を見て頷くばかりだった。
そして、忘れてはならないのが彼女との最期。十日目のデートの際に志貴が提案した時から予想はついていたが、それでも嬉しさを隠せない展開であった。切なくて、決してハッピーとは言えない結末だけれど、そんな決断をしてくれた彼女は、間違いなく私の愛したアルクェイドであった。自分にたくさんの幸せをを与えてくれた、そのことを本当に嬉しそうに語る彼女が眩しくて眩しくて、涙が止まらなくなる。結ばれない恋だけれど、結ばなくても恋なのだと、その美しさが描かれたお話は間違いなく最高であった。
☆シエルルート
アルクェイドを想うが故にシエルルートに突入するまでに色々と整理するための時間を要したが、始めてしまえば待っているのは面白さだった。このルートはアルクェイドルート以上に戦闘シーンに力が入れられており、そのバリエーションの豊富さから戦闘ごとのシーン回想を設けてほしくなったほど。徒手空拳で戦うのもいいが、様々な武器を使って敵を倒していくのはやはり楽しい。パイルバンカーなんて心躍る武器を使ってくれるから尚更。
武器の使い手であるシエルも大変自分好みの女の子で、代行者として活動するときと日常とのギャップが実に良かった。カレー好きが転じて始まるギャグパートも面白くて、どちらの顔も含めて彼女は可愛った。カレーうどんをおかずにカレーライスを食べるのは流石に笑ってしまう。
話が動き出すのはロアの転生先が志貴に移ってからであり、そこからは戦闘が激化することは勿論のこと読んでいてキツイ場面なんかもちらほら出てくる。中でもシエルの過去が明らかになる場面は辛くて、志貴以上に壮絶な生い立ちの彼女に情が芽生えないはずもなかった。アルクェイドもその境遇故に寂しい人生も同じだったが、、それはシエルも同じだったのだと。二人の間に共通項を見つけてからは、このルートの見方がだいぶ変わった。
また、壮絶な生い立ちと言えば忘れてはならないのがもう一人。リメイクで初登場したノエル先生。彼女はまあ癖の強いキャラクターで、同時に可哀想なキャラクターでもあった。幼くして家族を亡くして、教会に入るも才能に恵まれず、拾われる形でシエルの弟子になって。そんなシエルにも見放され、本来狩る対象である吸血鬼にも身を委ねて...。実際にプレイしていた時は邪魔にしか感じないような存在であったが、後々思い返してみると中々可哀想な人だなと。
唯一勝利を勝ち取ったであろうBAD END後もアルクェイドに消されてしまうのは明白であるし、どうやったら彼女は幸せになれたのだろうかと考えると、やはり生き延びてしまったこと自体が彼女にとっての不幸だったのかなと。好きになることはないが、色々と考えてしまうキャラクターだった。
そして、本ルートの要でもあるアルクェイド対シエル・志貴これまでの比ではない規模の戦いになっており、True Endである「白日の碧」ではもはや何と戦っているのかわからなくなるほどのものだった。どちらも共通してアルクェイドが諦める形で幕引きとなるわけだが、どちらも笑って失恋を認めているのがアルクェイド好きとしては胸に来る。個人的には「夜の虹」ENDのアルクェイドの台詞が切なくて大変好みである。シエルのお話というよりは、シエルとアルクェイドのお話であったが、それ故に楽しむことができたのかなと思う。
思い返すだけで幸福感に浸ってしまうような作品だった。黒豹や包帯の彼、それからマーリオの事。加えて未だ解禁されていないヒロインルート等々、続きは大いに気になるものの、大好きな女の子とそれを立てる素敵なお話を読むことができたので大満足。本当に幸せな時間だったなと思う。