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asteryukariさんのゆびさきコネクションの長文感想

ユーザー
asteryukari
ゲーム
ゆびさきコネクション
ブランド
HOOKSOFT(HOOK)
得点
80
参照数
1185

一言コメント

ただでさえ可憐な容姿をしているのに、物語が進むことで内からも魅力的な一面が溢れ出てくる。これはどの娘がではなく、どの娘”も”だ。読んでいて幸せな気分に浸れる作品だった。

**ネタバレ注意**
ゲームをクリアした人むけのレビューです。

長文感想

HOOKSOFTの新作ということで、また可愛い女の子とのいちゃいちゃラブラブタイムが待っているのだろうなと、そんな軽い気持ちで読みにいったら本当に皆可愛くて驚いた。読み始める前は私好みのヒロインは二人くらいかなと感じていたのだが、読み終わってみるとそれぞれのヒロインに別の魅力があって、好きか嫌いかでいえば全員が好きに当たる。本当にこういった感覚は久々だったので、こんな素敵なヒロイン達を用意してくれたHOOKさんには感謝の念しかない。

さて、まずはシステム面について。本作はヒロインとお出かけし、コミュニケーションをとる事でヒロインの好感度を稼いでいくというものなのだが、本作で新たに取り入れられた「コミュニケーションツール」の効果については正直あまり感じられなかった。というのもメッセージアプリだからこそ良いなと感じる瞬間があまりなく、会話の内容もあまり意味を成さないようなものばかりだった。

公式には「いままで以上に”リアル”を感じて、ヒロインとの恋愛をお楽しみください」と書かれていたが、むしろ離れていることを実感してしまうことが多かったかなと。正直、これについては目新しさ以外何もなかった。

ただ、メインの物語の方はかなり良くて、好きなポイントが無数に存在したのでホッとした。主人公にはよくぞ踏み出し、素敵な恋愛模様を届けてくれたとお礼を言いたいくらいだ。実に幸せな時間だった。以下ルートごとに感想を綴っていく。



●悠月
初見のイメージ通りの頑張り屋さんな女の子であり、かといって真面目なだけが取り柄なわけではなくて、たまにボケてツッコミ待ちをしたりするなど非常にユニークで愛らしい性格をしている。また、サメ好きなんてこれまたレアな属性を持っていたりして、サメの事になると口が止まらなる点も面白い。ヒロインの中では一番会話が魅力的だったかなと。特にすっぴんのくだりは何回もリピートしたい。

そんな彼女は恋人関係になるとかなり砕けて、終いには週七で主人公の家に訪れることになる。今まで甘えるという行為を抑えていた分の反動だろうか、かなり主人公に依存していた。良かったのがその依存を悪いものではなく、良いものだと考えていてくれた点で、変にシリアスな話に持っていくよりかはこちらの方が彼女らしくて納得できた。彼女に合わせた話作りに感謝だ。

ただ、終盤で語られるマスターと悠月の母の話は正直、不要だったかなと。引っ張ったわりにエピローグでさらっと語って終わりというのは…どうにかならなかったのだろうか。


●美琴
正直に言うとパッケージ絵を見た時点ではあまり惹かれておらず、また設定もありふれたものだったのでそんなに期待していなかった。しかし、やってみると彼女の魅力に圧倒される。

純粋に美琴自身がべらぼうに可愛いのも大きいが、それに加えてこの√は距離の取り方が非常に良い。踏み込みすぎず、じわじわと攻めていった結果、素の彼女が見られるだなんてこんなの感動ものだろう。それまでの彼女も良かったが、やはり演じることをやめた彼女の方が圧倒的に好みだった。

そして、親しい隣人であり仲のいい友人のまま時間が経過していき、ふとした時に凄く淡白な告白を経て恋人になる。こんな理想的且つ自然な付き合い方をしてくれるだなんてと、予想外に好きな話運びに舌を巻いた。その後のベランダでのやりとりも素敵で、隣人であることの利点も活かされていた。

付き合ってからもその素晴らしい話運びは健在で、恋人から夫婦へと意識が変化していく様は眺めているだけで幸せな気分にさせられる。友人や家族の絡ませ方も絶妙で、二人の関係をより良いものになるよう後押ししてくれていた。軽く振り返ってみてもその感動が沸き上がってくる。話としては作中でもかなり好きな方だった。


●夏歩
主人公が変わるきっかけを作ってくれた少女であり、見た目もかなり私好み。常に人をからかってくるような小悪魔的な性格もまた良し。

そんなからかい上手の夏歩さんが時折見せる主人公男らしい行動に頬を染めるようになっていき、次第に本気で主人公の事を好きになっていく光景は実に素晴らしく、乙女な一面を見せるようになった彼女の破壊力は凄まじかった。子供っぽい事を気にしてむきになる所なんかもチャーミングだ。

付き合い始めてからは純粋に主人公の彼女として振舞いたいという想いからか、以前よりもかなり素直になって、主人公のために尽くすようになる。ギャップ萌えというか、もう最高に可愛い年下彼女になってくれて、口角が元通りになるのはエンディング曲が流れた後だった。

結局、彼女の夢というも含め、最後まで子供っぽい彼女だったが、それが彼女の最大の強みになっていたのかなと。他のヒロインにはない部分をきっちりと武器にしてきて、彼女に期待していた身としてはもうそれだけで充分だった。


●伊織
バーで働くクールでかっこいいお姉さんなんてそんなの惹かれないわけがなくて、登場から数秒で彼女の虜になった。不意に可愛いと言われても笑って流せるあの余裕な感じがもうたまらなくて、まさに理想のお姉さんキャラだなと。細かい所だが”キミ”呼びな点もグッド。

親しい関係になっても彼女の余裕な態度は変わらなくて、けれど内面は少しずつ変化していくというのがとても良かった。とあるきっかけでいきなりデレたりするよりも、こちらの方が自然だ。彼女というキャラクターを崩さず守ってくれた事が本当に嬉しい。

また、この√はヒロインが素敵なだけでなく、それを支える物語自体も素敵で、付き合って終わりではなくそのまま同棲生活まで描いてくれる。素晴らしいのが同棲生活に至るまでの準備の部分も丁寧に描いてくれた点で、物件を視察し生活をイメージした上で決め、住む場所が決まったら今度は必要な家具、それから家具の置き場所について二人で話し合うというところまでやってくれた。

この√だけがロープライスとして世に出されていたとしても充分、他の作品たちと戦えていたと思う。それほどまでにこの√は欲しいものが詰まっていた。シーンもかなり好きなものが詰まっていたし、もはや言う事がない。橘伊織さんというキャラクターを全力で磨き上げるようなお話だった。





総じて良質な作品だったなと思う。不要だと感じる部分はいくつかあったが、それでもこの満足感は本物だ。ありがとう、HOOKSOFT。