日常シーンが大きな割合を占める作品ではあったが、ヒロインの特性上これで良かったなと今は思う。似通った展開も多いが、きちんと良い要素も存在する一作だった。
年々、観光客の数が減少している島という事で、何だか妙に現実味を帯びた始まり方をしていた。そんな土地を舞台に突然現れた天使、悪魔と交流を深めていくというのが主な内容。
基本的に日常メインの作品となっていて、個別√へ派生するとヒロインとの恋愛描写こそ増えるが大きなイベントはなく、ヒロイン固有のエピソードもあまりない。設定上、仕方のないことではあるが終盤がどれも似通っている点もよくない。けれど、良い点もきちんとあり、それは先ほど述べた日常にあった。
更生のために送られてきただけあってはじめは人間への印象が悪く、見下しがちな彼女達だったが共に時間を過ごす中で時代に心境が変化していく。その光景がとても温かくて良いなぁと感じた。以下√ごとにヒロインの特徴も交えながら感想を述べていく。
〇ルシエラ
他のヒロイン達と比較するとだいぶ物腰が柔らかで、人間たちに対しても優しいまさにお姫様なヒロインだった。言ってしまえば観光のためのダシに使われたにも関わらず、嫌な顔をせず喜んで引き受ける彼女を見て本当に良い子だなぁと。島の親父たちのクソさが際立つ。
彼女がこんなにも好意的なのは島の人間を延いては人間たちの事が大好きだから。そんな天使にしか見えない彼女が終盤にぶち当たる壁は自身が「悪魔」だという事実。優しすぎるが故の苦悩だった。ただ、そこまでシリアスな話にはならなかったのでそこは良かったと思う。
ラストも彼女の事が好きなユーザーであればうんうんと頷いてしまうような結末で、胸がほっこりした。ヒロインの中では一番好きだったかなと。
〇シャル
見た目通り元気で明るくて、ちょっぴり生意気な少女。はじめは他社の事を「人間」と呼ぶなど、癖の強さが目立っている彼女だったが、旅館で働いていくうちに皆に対する意識も変わっていく。そして、自身が迷惑をかけている事も自覚していくというのが本√の大きな見所。
何をしても失敗するし、そのたびに怒られる。自分と戦い成長していく彼女を見て、いつの間に香私自身も応援しながら読んでいた。だから彼女が女将さんに認められたシーンはすごく胸に来たし、良いストーリーを用意してくれたなぁと。それが最後まで続いてくれればもっと良かった。
最終的にはいちゃいちゃに逸れてしまったが、シャルちゃんが天使なのは変わらなくてストレスフリーで読み切ることが出来たと思う。
〇マティ
警戒心がかなり強めなヒロインで、自身の√以外では全然デレない。また、大魔王の娘であるルシエラへの忠誠心も凄まじく、彼女が人間の私利私欲のために使われている事実に激しく嫌悪していた。
そんな彼女をどうやって落としていくか、ものすごく単純な方法で落としにいっているのを見て笑ってしまった。そんな馬鹿な事があるかと流れれるように距離を詰めていく二人に唖然とした。ただ、デレてからのマティが可愛かったのは事実で、尖り方が尖り方だっただけにふにゃふにゃになっていく彼女を見て笑みを浮かべてしまった。
〇桃華
ヒロインの中では唯一の人間。家では若女将として仕事をして、学校では生徒会員として動く彼女。当然周りからの人気も強く、彼女自身もそれはわかっていた。そんな彼女が言うわけだ、「…私を見てくれる人はひとりだけでいいから」と。もう一人の天使を見つけた瞬間だった。
中盤辺りまでは主人公に対する想いからルシエラやマティに嫉妬していて、だから最終的には二人きりで旅館を営んでいくような結末になるのかなと思っていたのだが違った。
確かに嫉妬はしていたけれど、同時にたくさん助けてもくれた。そして一緒に仕事をしていくうちにかけがえのない存在になっていたのだと、彼女は言ってくれた。最後のお願いの場面はとっても素敵で、あのシーンでこの作品に対する評価が上がったと言っても過言ではない。よくやってくれたと桃華ちゃんに伝えたい。
振り返ってみてもやはり日常シーンが豊富で、最後にちょっとしたイベントがある程度の内容だったがしっかりと良い点も存在する。正直、もっと変な方向に行くのではないかと考えていたのが安心した。