ErogameScape -エロゲー批評空間-

asteryukariさんの終ノ空 remakeの長文感想

ユーザー
asteryukari
ゲーム
終ノ空 remake
ブランド
ケロQ
得点
83
参照数
1692

一言コメント

「終ノ空」と「素晴らしき日々」。この二作をつなげる作品としてよく出来ていた。加筆された部分が本当に嬉しいものばかり。

**ネタバレ注意**
ゲームをクリアした人むけのレビューです。

長文感想

この作品の名前を見た際は1999年に発売された終ノ空のリメイク作品なのだと思っていた。しかしながら双方をプレイしてみるとその印象はガラッと変わる。そして、本作は素晴らしき日々が生まれたからこそ生まれた作品なのだと強く理解した。

前半の行人視点や琴美視点などは終ノ空と酷似しているが、終盤に読むことが出来る卓司の視点及びNuminoseに関しては明確な相違点があって、それは素晴らしき日々を想起させるようなものであった。

特に私が…というよりは恐らくプレイした方の多くが印象深いと感じたシーンはやはり卓司視点のラストになるのかなと。「観念の世界しか愛さない」と言う卓司に対しやす子も「お前は何度ここに立っても、愛を知ることはないだろう」と言い放つ。それは本当にその通りで、この終ノ空の卓司はどのようなルート(視点)を選んでも変わることはない。

今作のやす子がかなりお気に入りのキャラクターなだけあって、本当の愛を知った彼女がそうやって彼にぶつかってくれる光景を見てうっとりしていた。正直、油断していた。まさかあんな声が聞こえてくるとは思わないじゃないか。

「ボクは聞いた事がない何故か懐かしい声を聞いた気がする」

そう、この世界の彼は変わることができない、愛を知らない卓司だったが素晴らしき日々では違う。彼女と出会うことで愛を知り、変わることが出来る。「なるほど、これもボクを変える出会いだったという事か」じゃないぞまったく、早くあの娘のいるとこにいってやれよと、小さな感動がじわじわと押し寄せてきて少し泣きそうになった。

彼女の存在は終ノ空の登場人物と比べるとかなり異質。終ノ空の人物たちは恵まれた世界で生きることに後ろめたさ、苦痛を覚えていたけれど、彼女はそうではない。それを良しとできる。そんな彼女だから卓司の事を変えることが出来たのかなと。改めて彼女の事を好きになったし、その想いを抱いてプレイする素晴らしき日々は最高だろう。

また、先ほどお気に入りだと言ったやす子視点のお話もかなり面白い。無印のビジュアルからは想像もできないくらい可愛くなったやす子。正直、見た目が良くなったのは大きいと思う。

やす子の物語は生い立ちが丁寧に描かれていて、故に彼女の心情を理解することもできた。自らのために他人や弟すらも利用し駒として扱う。人の心を操ることに長けていた彼女だからこその生き方だ。

そんな彼女が心から人を好きになり、欲しいと思うようになる。その心境の変化がこのお話の肝であり、私の大好きな部分でもある。救世主に対して自ら意見したり、彼女の身代わりとなって男子生徒に回されている彼女を見てもう、どうしようもなく好きになってしまった。

全ては琴美を好き勝手するため。言い方は多少ひっかかるし、歪んでいるとも思うけれど、彼女のそれはまさしく純愛であった。その後、屋上で間宮卓司に自信満々に愛を語る姿が本当に美しい。

あとはまあ、兄妹愛の観点でも彼女の良さが溢れ出てくる。本当にこんなにも素敵なキャラクター、お話を追加してくれた事に対して感謝の念しかない。

少し絵が綺麗になった終ノ空くらいにしか考えていなかった自分にとっては思わぬ収穫だった。購入してよかったなぁと心底思う。