独特な世界観と独特な登場人物達で構成された作品であり、読み進めていく面白さがあった。個別パートの出来はまちまちだが、思わず唸る瞬間もあったりしたので満足度は高め。
天涯孤独の身でアルバイト漬けの日々を送る主人公。物語開始からかなり重めで、ホラーチックな展開あり、バイオレンスな描写ありなので序盤は結構シリアスな作品なのかなと思っていた。頭を潰されても喋る男に、自分の生首をボールにして遊ぶ子供。それから異形と化し意識を失っているモノたちがいたり...もう絶対に明るい話にはならない予感がしていたのだが、そんなことはなかった。
宿の住民達は初見こそやべえ奴等感しかなかったのだが、話が進行するにつれ信頼関係が深まっていくと、凄く良い奴等に見えていく。変わっているけれど、優しさはきちんとあるのだ。そして、そんな人たちに囲まれ生活していく日常は当然魅力的に映った。日天(主人公)もそれを肌で感じていて、挨拶代わりの撲殺には引きつつも、笑顔が増えていく。日天にとって彼らはもう家族のような存在になっていたわけだ。
そんな感じで日天と住民たちの日常が描かれた共通パートはかなり好印象で、序盤に感じた暗さが嘘のように明るくて賑やかな時間が流れていた。毎日一人で食事をしていた主人公が、テーブルを囲ってみんなで食事をしている。その事実を考えるとスチル以上の良さがあって、読み手としても温かい気持ちになった。嬉しいのが共通パートの延長のような、みんなで仲良しエンドがある点で、これは良いなと。後述する成臣√は実質真相√であり、出来もそれなりに良いのだが、日天の事を考えるとこの結末こそが本作のTrueエンドだと私は思う。
さて、それでは四人の中で最も好感度が高く、内容も好みだった成臣√について語っていくが、このルートの一番の魅力は言うまでもないが成臣というキャラクターである。優しくて頼りになるイケメン...ではなく下心で近づいてきた日天のことが大好きな乙女だった。しかしながら終盤の告白シーンでは日天だけでなく、読み手の心も掴んでしまうような真っ直ぐで芯のある台詞を次々と口にしてくれる。何を失っても日天が傍にいてさえくれればそれでいい、そんな破滅願望にも似た強烈な愛の告白を目の当たりにして、なんだか嬉しくなってしまった。彼は私が見込んだ以上のイケメンだったのだ。
日天の過去が明らかになると盛り上がりも最高潮に達するが、若干、日天兄にキャラ負けしていたのでそこは惜しい。まあ兄が良い人すぎるので仕方ないと言えば仕方ないのだが。成臣とは違う家族の愛情に多くのユーザーが目を潤ませたことだろう。ただまあ、最後はしっかり成臣とくっついていて幸せな結末を迎えていた。普段は押しまくりなのにたまに弱気なるのも成臣の可愛い所である。どうか幸せになってほしい。
多少パンチは足りなかったかもしれないが、日天の背景事情が物語にしっかりと絡まっており、攻略対象だけでなく彼自身も救われるような内容になっていたのが非常に良かったと思う。