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asteryukariさんの紅月ゆれる恋あかりの長文感想

ユーザー
asteryukari
ゲーム
紅月ゆれる恋あかり
ブランド
CRYSTALiA
得点
78
参照数
1205

一言コメント

恋愛ではなく、あくまで刃道とそれから友情に目を向けた作品に仕上げてくれた事を大変嬉しく思う。また、密かに期待していた部分にも充分以上に応えてくれた。

**ネタバレ注意**
ゲームをクリアした人むけのレビューです。

長文感想

真剣で戦う近未来スポーツ「刃道」を題材にした作品。前作「白刃きらめく恋しらべ」がイマイチだったのもあり、刀が似合う可愛い女の子がいればいいやくらいの気持ちで臨んだわけだが…想像より遥かに面白かった。どの子が可愛いとかそんなことを言っている場合ではなくて、読み進めるのが純粋に楽しい。熱さあり、涙あり、百合ありの友情味溢れる作品に仕上がっていた。

本作はこれまでの作品より過去のお話。朱雀院家四姉妹の長女として「紅葉」が登場する。四姉妹ということで当然、三女や四女も出てきたりするわけで…本作の購入理由の半分くらいは都子さんの過去が見られる点にあったりする。まあその辺の話は後々。

今作のヒロイン達が目指すのは学園一の剣士の称号「刀仕禰宜」を手にすること。そしてそんな選手たちの指導役として選ばれたのが本作の主人公だったわけだ。

はじめは飄々としたその態度からヒロインも私すらも彼の実力を疑っていたが、読めば読むほど思わずニヤけてしまうような設定が零れ落ちてくる。ただ強いだけでも充分なのに、「剣豪殺し」なんて異名まで持っているだなんて…誰の脅しにも応じないその姿はまさしく主人公に相応しいものであった。

そんな彼の下、ヒロイン達は共に腕を磨いていく事になる。学園最高峰の座を目指すのに慣れ合う必要があるのか、序盤に紅葉が抱いた疑問はまさにその通りで、私としてもこの先の戦いが生温いものになっていくのではないかと不安に駆られた。しかしながら、そんなことはなかった。

物語を読み進めていくと最初からやや険悪ムードだった旭と梨々夢がぶつかり合い、そこから授業ではなく、本気でぶつかり合うシーンが増えていく。大会前からこんなに戦っていいのかとも思ったが、これらのイベントこそが終盤のための布石だったわけだ。共に本音を晒し合いながら真っ向からぶつかることで、やがて友情が芽生える。そして、その友情は一回限りのものではない。

大会が始まると各々の回想を挟みながら試合が進行していく。自分はこれこれこういうきっかけで刃道を始めたという所から、負けられない理由等々、彼女たちが刃道に懸ける想いがよく伝わってきた。良かったのがメインヒロインだけでなくサブ的な立ち位置のヒロインの事もきっちりと語ってくれる点で、単なるやられ役を用意してきたわけではないのがとても好印象。メインの娘が負けることもあった。そこから…だ。そこから本作の見所がぐんと増える。

負けた者はただ涙を流すだけでなく、共に腕を磨き合った仲間の応援に駆け付けるのだ。その時の組み合わせが本当に素敵で素敵で、「ああ、あの時の戦いはこの瞬間のために用意されたものだったのだな」と理解が及ぶと同時に胸の奥から熱いものが上がってきた。これを友情と呼ばず何と呼ぶのか、そんなシーンが次々と出てくる。

ヒロインは特に旭が好きで、先ほど述べた友情味溢れるシーンが存在する点は勿論だが、それ以上に努力家という点が素晴らしい。個人的に準決勝にあたる紅葉との一戦は本作で一番の名勝負だと思う。

堕落した生活を送る紅葉を横目に彼女はずっと努力し続けていた。その事については序盤の日常シーンでも触れられており、紅葉が夜更かししている間も旭は外で鍛錬していた。

「ヒトより多く積み重ねることでしか勝てないのなら、そうするより他はないでしょう?」

本当にその通りなのだが、それを徹底してくれるのは何というか…すごく嬉しい。

ただ、残念なのが容易に決勝の組み合わせが予想できてしまう点。あそこで旭が勝っていれば驚きだが、勿論そんなことはない。ルートも一本道なので旭が紅葉に勝つことはないのだ。兄との電話で初めて涙を流す彼女を見てつい泣きそうになってしまった。本当によく頑張ったと思う。

決勝もそこそこに熱いバトルが見られて満足感に包まれていた私だが、その後の展開については正直、蛇足だったかなと。足りない部分を補うために差し込まれた展開だろうとは思うが、あれにより生まれた感情は決して良いものではなかった。朱雀院に生まれてよかったと言っていた数十分後に朱雀院に生まれたことを後悔するのは流石に笑ってしまう。

本編クリア後は(途中でも)「SPECIAL」にてヒロインの後日談、実質的な√が鑑賞できるようになる...のだがやはりおまけ的な立ち位置であり、主人公と急接近してえっちして終わってしまう。中には明らかに短い子もいたり。ただ、本作に限ってはこういった作りでよかったのかなと思う。勿論、良質な男女の恋愛を描いてくれるのもそれはそれで嬉しいが、どちらかというと同性の関係が映える作品なので。



といった感じで本筋を振り返るだけでも充分面白かったと言えるが、それだけじゃない。この作品は私が密かに抱いていた「都子さんの過去が見たい」という願いにしっかりと応えてくれた。まあ椿と一緒にちょろっと出てくるくらいだろうなと思っていたら、かなりの頻度で登場するから驚きだ。しかも剣まで握ってくれるなんて…主人公の最後の一撃に反応するシーンで絶頂してしまった。

加えて芯が全く変わっていない点も嬉しい。皆が学園一の剣士になることを目標としている中、「学園一」に疑問を抱き「刀仕禰宜になってもしょうがなくない?」と一蹴するところなんかは最高としか言えない。流石は世界最強の剣士である。椿と主人公の子供が生まれたら強そうだから戦いたい発言には笑いを堪えきれなかった。こんなにも都子さんのことを書いてくれて本当にありがとう。

総じて期待値を遥かに上回る作品だったなと。次作にも期待しています。