出会いから友人、やがて恋人になるまでを丁寧に描いた一作。
普段からある程度仲が良く、そこから恋仲になるのであればそんなに期間はかからない。ただ、本作の場合は全くの初対面であり、そこに「仲」なんて言葉すら存在しない。しかも相手は人付き合いを避ける無口でクールな女の子。主人公は本当に凄い勇気を出したと思う。
主人公の努力のおかげか次第に打ち解けてきて、無口だった彼女も笑顔で話しかけてくるようになる。この変化だけを見てもかなり心が温まる話で、いつの間にか彼女の方からちょっかいかけてくるようになるのがまた。そう、彼女は主人公が自分に話しかける事を「ちょっかい」と言っていたが、そのちょっかいがあったからこその関係なのだ。
友人からやがて恋人へとステップアップしていく光景は案外あっさりとしていて、そこには劇的なイベントだったり、目を引く告白シーンは存在しない。だが、そうであったからあんなにも自然に見えたのだろう。それまでの積み重ねがあるから何ら違和感はなかった。
えっちを覚えてからは年相応といったところか、猿のように場所問わず、色々なシチュエーションでえっちを試す二人だが、その際もちゃんとお互いを気遣うやりとりを挟んでくれるのが良かった。
また、それだけで終わってしまうかと思いきや彼女の「やりたいこと」に焦点を当てた話が終盤に用意されていたのが本当に嬉しかった。彼女のやりたいこと、それは音楽。主人公も彼女のギターの音色に惹かれて彼女の事を意識するようになっていたため、この作品にとってギターは案外重要な要素だったと言える。
父親との衝突話に関してはもっと拗れるかなと思いきや、父親がただ否定するだけのタイプではなかったので言っていることも理解できるし、読んでいてストレスが溜まることはなかった。姉である彩音さんもちゃんと意味のあるキャラクターになっていたのが嬉しい。
エピローグについてもこの作品の幕引きにピッタリなもので、ただ恋人として彼女と過ごした日々を噛み締めるのではなく、彼女との出会いを通して主人公が何を思ったが書かれていたのが非常に良かった。
このメッセージカードを見た時、彼は思ったはずだ。「ああ、あの時、声をかけてよかったと」。出会ってくれたお礼を言っているのは鈴音の方だったが、それは主人公も同じ。いつまでも相思相愛であることを確認できて、私も満足してゲームを終了することができた。
最後に声優さんについて。あの人も相当長い間この業界にいるわけだし、声が変わってしまうのも仕方のないことなのかなと。大好きな声優さんなのでこれからも頑張ってほしい気持ちがある反面、もう休んでもいいと思う自分もいる。どうか身体を壊さないで下さい。