ヒロインを愛でるつもりが、気付いたら三十路のおじさんに溺れていた。
有名な豪邸に一人で暮らしている三十路の独身男(以降”おじさん”と呼ぶ)と母子家庭で友達のいないぼっち少女が出会い、共に暮らしていく事になる。プレイ前に軽くあらすじを読んだ際もかなり興味惹かれたのだが、実際にやってみるとあっという間にこの作品の虜になった。いや、おじさんの虜になったとでもいうべきか。
おじさんこと一条正宗。彼が本当にもう、とてつもない魅力を秘めていたのだ。ぼっちだと言われたら「孤高」だと反論したり、食べ物に変なこだわりがあったり(コンビニのサンドイッチは午前便で来たのを12時までに食べたいとか)、学生時代にする恋愛を「ガキの恋愛」だと吐き捨てたりと癖のある返事をする変なおじさん。本当に読んでいて何度吹き出したかわからない。
なぜあんなに面白いと感じたのかと考えてみると、やはりボイスとテキストがピタリとハマっていたからからだなと。凛々しい顔した三十路のおじさんが冷静な口調で少し変わった持論を語り続ける。その姿、声、文章に魅了されていたのだ。本当にもっと彼のお喋りを聞いていたい...。
また、忘れてはならないのが「アナルフェチ」。おいおい、あんたはどこまで私を笑わせれば気が済むのだと、特に初体験のくだりは大変だった。こんなに面白い初体験も中々ないだろう。「気合を見せろ高村のどか!」じゃないぞまったく...。いつもは冷静沈着なおじさんが尻穴の締まりの良さに感銘を受け、ノリノリになっていくのがまたツボだった。ちなみに「にがうり」のくだりも勿論大好きだ。
といった感じで変人及び変態な所がたまらないおじさんだったが、人としての優しさとそれから情もきちんと持ち合わせていた。はじめにのどかを受け入れた時から優しいのは知っていたが、彼女と生活していく事で徐々に彼の新しい良さが見えてくる。特に印象的なのはのどかに隠れて泣くシーン。あそこで彼の事を一層好きになった。線香をあげていた件もそうだが、ちゃんとのどか視点で見つけていく点が丁寧で非常に良かったなと。
物語は終わりに近づき、やがて一つの結末を迎える。そして、その結末が本当に素晴らしかった。
前夜の会話でも言っていた通り、もし別の選択肢をしていた際も彼は成功し、そのまま裕福な生活を送り続けたことだろう。だが、彼女はどうなるか。彼女の事を考えて出した答えがあの結末だったわけだ。もはや狭い生け簀に住んでいるのは自分だけではないのだから。それを彼女に伝える際に「オレの人生における~」と切り出し始めたのもおじさんらしくて凄く良い。
外面だけでなく、内面にも有り余る魅力を秘めている。軽く振り返ってみても笑みが零れてしまうくらい素敵なおじさんだった。また、ヒロインであるのどかも喋りたがりのおじさんに合った性格をしている。時たま反撃する所なども含めて相性はぴったりだったと言えよう。彼ら二人の夢がいつまでも続くよう祈るばかりだ。素晴らしい物語でした。