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asteryukariさんのMECHANICA -うさぎと水星のバラッド-の長文感想

ユーザー
asteryukari
ゲーム
MECHANICA -うさぎと水星のバラッド-
ブランド
Loser/s
得点
83
参照数
819

一言コメント

大きな一つの光に見えるそれは、本当は小さな灯りの集まりだった。こんなにも素敵な景色を見せてくれてありがとう...。

**ネタバレ注意**
ゲームをクリアした人むけのレビューです。

長文感想

前作「うさみみボウケンタン」がなかなか面白かったので、こちらにもわりと大きめの期待を抱きつつ臨んだ。そして本作はその期待に十分以上に応えてくれた。「音楽を聞かせて情報を集める」とのことだったので、始める前は多少身構えていたのだが、始めてしまうといかに簡単かがわかる。足し算すらできるのであれば演奏自体は問題ない。(私は脳が小学生未満のようで、二回ほど足し算を間違えた)

苦労するのはズバリお客さんの要望に合った曲を選ぶこと。「元気になる曲」や「優しい曲」等のリクエストであれば簡単なのだが、中には曖昧なリクエストをしてくる奴らがいる。此奴等が本当に厄介で一日に使える時間やPOWERの量も限られているために、外すと相当痛い。しかも「これじゃないんだよなぁ…」なんて小言を零す。「いや!お前が!あああああもう!」とちょっとした怒りすら芽生えてくる。

では演奏前にセーブして間違えたらロードすればいいではないかと思うのだが、システムの仕様上、その戦法も使いにくい。最終的に結局はループするわけだし、またやり直せばいいという結論に行き着くのだ。

物語はタイムリープして三日後に来たる水星崩壊を食い止めようという話であり、こう書くと簡単すぎる気もするが、実際は少し大変。先程述べた演奏の事もそうだが、街に流す曲によって住民が変化するという仕組みがあって、これが結構厄介であり、楽しい部分でもある。

憎たらしいことに彼らはその場では手に入らないアイテムばかり所望する。そして自らは動かないという…ギロチンシティに相応しい住民だ。そんな彼らのために街に流す曲を切り替え、彼等のために演奏をしていく日々がこの作品のほとんどを占める。

感覚的にはわらしべだろうか。徐々にアイテム渡しがスムーズになってきて、住民の正体がわかったり、住民と住民とが繋がっていく感じがとても楽しい。また、崩壊を止めるための手掛かりである三つの証拠も次第に集まっていく。

そうして辿り着く世界の仕組みについては…前作も好きだったが、今回は更に凝っていて、解説読んでいるだけで笑みが零れていった。なぜ水星が滅んでしまうのか、その理由も読んでいて心躍ったが、何よりプレイヤーを巻き込むあの感じがたまらなかった。

「アンタは俺だ。俺がアンタだ」
「行こうぜ、相棒。くそったれな世界を護ろう」

こんなの護ろうと思う他ない。

加えて嬉しかったのが前作キャラの登場。アイア、バナナオイル、そしてうなさか。メカニカがなぜ前作と同じうさぎをモチーフにしたキャラクターなのか、そこにはうなさかの想いが込められたわけだ。「あの冒険」で手に入れたものが彼女にも受け継がれている。それを理解した時、もうどうしようもないくらい涙が出た。たった、数行。特別な演出なんてないのにそれでも胸に来た。そんなわけで彼女と再会した時も当然号泣だよ。

「だって...また『マスター』…あなたに会えたから...」

“マスター”呼びなのがまたずるい。



主人公たちを助けてくれた人たちや、すれ違っただけの人たち。それから全く違う時代の人たちや、次元さえ違う場所に人たちまで、世界に応援されながらの最終戦は負ける気がしなくて、とっても気持ちが良かった。これは彼らと触れ合い、共に生活した日々があったからこそのモノ。

人と人で育む「愛」、その力は何者にも勝る。前作とリンクしていて非常に良かった。本作には様々な魅力があるけれど、詰まる所これを伝えたかったのかなと。色んな場所から逃げてきたどうしようもない奴らが住む街だけれど、演奏を通じて心を通わせていくうちにいつの間にか住民たちを好きになっていた。日常の風景を終盤になって活かしてくる。その美しい構成に心打たれた。



こんなにも終わった後に清々しい気分になれる作品は久々だった。話を振り返ればまた楽しくなってきて、キャラクターを振り返れば本当に好きなキャラクターばかりだったなと。メカニカは勿論の事、ケルフィも相当好きだし、草ちゃんも、酔っぱらいだって好きだ。汚くて薄暗い、本当に未来なんてない街だけど、今はギロチンシティが愛おしくて仕方がない。