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asteryukariさんの虚ノ少女《NEW CAST REMASTER EDITION》の長文感想

ユーザー
asteryukari
ゲーム
虚ノ少女《NEW CAST REMASTER EDITION》
ブランド
Innocent Grey
得点
83
参照数
557

一言コメント

ミステリー部分といい、殻ノ少女との関係性といい、とても丁寧な作りをしていた。未だ明かされていない事実もいくつか存在するが、それでも一区切りは付いたのかなと。切ないけれど、嬉しいよ。

**ネタバレ注意**
ゲームをクリアした人むけのレビューです。

長文感想

次々と起こる事件と浮かび上がってくる謎の数々。それに対して小さな手がかりを拾いつつ、少しずつ少しずつ迫っていく感じは前作と同様読んでいて面白かった。ただ文章が続くのではなく、実際にプレイヤーが選択することで話が進行としていくという点がADVの特色を活かしていてとても良い。

さて、今回は村の風習が大きく関わっているということで東京周辺だけでなく、富山の方と行き来することで話が進んでいく。これが自分としてはわりと嬉しい。実際に現地に赴き、現地で調査することによってはじめて真実に辿り着ける。ミステリーものに大切な事をよく理解していた。

また、大きな回答に辿り着くまでに小さいけれど重要な答え合わせがいくつも用意されていて、だからこそ飽きずに読み続けることが出来たのだと思う。具体的に言うと第四冠に差し掛かる前、理人君の正体がわかる当たり。正体事態はわかりやすいけれど、そこから新しいヒントが生まれていく光景を見て昂る気持ちを抑えきれなかった。

花恋については過去の話の時点でお兄様好き好き状態だったので、まあそうだろうなと。動機も勘付いていたので正直、仮面を剥いだ時の衝撃はなくて、ここで終わりだったらどうしようと不安すら生まれた。ただ、そんなもので終わるほどこの作品は甘っちょろくなかったわけだ。

砂月の件はまあ驚かされた。双子とわかってようやく序盤の暗い部屋での会話の意味を理解したし、小夜さんの言葉の意味も繋がっていく。「ああ、この感覚だよ」と心の靄がスーッと消えていくような、そんな感覚に浸っていた。加えて冬見さんについても同様かそれ以上の衝撃だ。

雪子が何かしてしまった+危険な状態だということは局所で挟まれる夢の内容を見て把握できた。でもまさか冬見さんが...とは。雪子と比べてやけに明るいあの性格は単に義理である事を示すだけだと思っていたのだが、そうではなかったようだ。にしても最愛の人と再会してもあんなに平静としているなんて…かと思ったらきちんと髪飾りで揺らぐところが実に良い。その髪飾りのエピソードも二周目の過去話できちんと用意されているし、抜かりがなくて嬉しいかぎり。

二周目の存在はかなり重要な役割をしていて、単にこれまでの出来事を振り返るのではなく、所々に物語を補完する話が書き加えられている。特に理子に関する話が豊富に用意されているのが嬉しくて、皐月を殺すまでに至る経緯や、殺した後の彼女について知ることが出来るのは大きかった。

初めて人を好きになって、プレゼントまでもらった彼女。そんな幸せを手放したくないと思うのはとても自然な感情だ。それを奪われるだなんてあまりにも酷なことだし、ましてやその奪い手がもう貴女。どうして私と貴女はこんなにも違うのか、貴女が羨ましい、貴女になりたい、貴女が憎い。彼女の中はテキストでは書き表せないくらい感情が渦巻いていただろう。そんな彼女を見て心が揺れないはずなかった。

そうやって彼女の心情に浸りつつ、終わる時までぼうっと読み耽っていたのだが…やってくれた。中盤の冬子の台詞を聞くに、もしかしたらその辺まで書いてくれるかなと思っていたがここまでやってくれるとは。

詰まるところ、この作品は最初から冬子について触れていたわけだ。一周目の冒頭で語られるモノローグの意味がわかった時の衝撃たるや。そして、赤ん坊が玲人に抱かれた時の事、ここに繋がった時はもう涙が出た。人には懐きにくいあの子がなぜ玲人に心を許したのか、そういう意味だったんだね…と。また、紫の場合も同様で、初めは紫ちゃんのあまりの包容力に赤ん坊も安心したのかななんて短絡的な考えをしていたけれど、ちゃんと理由があったわけだ。

彼女の終わりについては素直に悲しい。私も玲人と同じく希望を持って物語を読み進めていたので、彼の叫びには同調せざるを得なかった。なんて理不尽、こんなのあんまりだと。希望は残してくれたが失ったモノ、叩きつけられた絶望が大きすぎた。

しかし、最後のモノローグを見てハッとさせられた。

「久し振りだね」から始まるその文章は、傷付いた私の心の隅々まで染み渡った。「ああ、そうか冬子は再会を喜んでいるのか」と。ずっと会えなくて寂しい思いをしていたのは玲人だけではなく、彼女もまた同じなのだと。だからタイトル画面であのような表情を浮かべたのだ。それを理解すると今度は喜びの涙が出てくる出てくる…。

序盤は前作と関係のない人物ばかり出てきて、冬子の話はどうなったんだと引っかかりつつ読んでいたが、いつの間にか話に引き込まれていたし、冬子に関する記述も十分すぎるほどに存在した。まだまだ謎が残る作品ではあるが、その辺は三作目で回収してくれることを願うしかない。そして、三作目では冬子の残した希望に焦点を当てた話作りがされていることだろう。



ああ、早く天ノ少女が読みたい。