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asteryukariさんの雪の夜、俺は妹を裸にする。の長文感想

ユーザー
asteryukari
ゲーム
雪の夜、俺は妹を裸にする。
ブランド
はむはむソフト
得点
78
参照数
2345

一言コメント

はじめは気分の悪い展開が続くが、徐々に靄が晴れてきて、最後には心の底から良い作品だったと思える。一見すると辛いだけの物語の裏には、しっかりとした強さが備わっていて、それがやがて感動へと結びついていく。不要な点も多いが、私は満足のいく一作だったと思う。

**ネタバレ注意**
ゲームをクリアした人むけのレビューです。

長文感想

序盤は主人公の態度、性格を見て気分を害する場面なんかも多かったが、読み進めていくこのキャラクターはそういった役なのだなと、周りのヒロインの立ち回りを見て強く感じた。だからまあ、主人公の言動や行動なんかには一ミリも共感できないし、そういう感じの作品ではないのかなと思う。まあでも、親がクソなところだけは理解できる。あれは流石に主人公が気の毒過ぎるよ。

あんな主人公であるからこそ周りのヒロインの優しさだったっり、想いの寄せ方に目を奪われる場面が多かった。

まずは何といっても有希だ。小さい頃からいじめられて、主人公にも殴られて。そうしていくうちに謝る時は頭を守る癖がついてしまったというのが何とも悲しい。それでも兄を慕い、兄の力になりたいと思う彼女の健気さには見ていて目を潤ませてしまう。

そんな健気な妹に対して八つ当たりのように、己の欲望をぶつけていく主人公にはまあ憤りを感じるわけだが、一方の有希ちゃんはというと彼女も彼女でそれを望んでいる。そんな歪んだ関係のまま二つのENDを迎えるわけだが、だからこそ最後の心から通じ合い、愛し合うあのENDが生きてくる。「Thank you for playing!」という文字と共に彼女が見せた最後の笑顔、あの幸せそうな顔が脳裏に焼き付いて離れない。

もうこれで物語が完結しているようにも見え、紗英に関しての興味というものも失せつつあった。だが、やって本当に良かった。まさかあんなにいい子で、あんなに好きなお話が展開されていくなんて思ってもいなかった。

幼い頃からずっとっ主人公のことが好きで、それは今でも変わらない。そんな彼女の告白を主人公はどんどん悪用していく。もう許せない、なんだこのカス野郎はと、怒りでどうにかなってしまいそうだった。しかしながらそんな扱いを受けてもなお主人公のことを愛し、喜びすら甘受する彼女。彼女もまた有希ちゃんと同じようにどこまでも主人公想いの女の子だったのだ。

有希と違うのは事後の会話で、元々の性格の違いも大きく関わっているが、紗英の場合は軽口をたたき合える普段通りの関係になっていたのが印象的だ。行為の最中は完全に主導権を握られているが、日常は対等であると、それはごくごく普通の恋人同士のような光景であった。

そうしてやや性に重きを置いた生活を繰り返しながらではあるが、二人は徐々に本当の恋人になっていくというのがなかなか素敵だった。

また、この√の特徴でもある、あの歪んだ関係であった妹と距離を置いてという結末がとても好みで、妹の優しさと紗英の優しさがマッチしていた。とあるENDで妹が残していく手紙が中々衝撃的で、その切なさには目を瞑ってしまうほど。

今の自分はがどれだけ迷惑をかけているのか、普通ではないのかを感じ、それを治そうと決心する。そしてそのためにはしばらくの離別が必要なんだと、ああ読んでいて辛い。極めつけは最後の「大好きでした。」だ。そう、もうここで自分の気持ちに区切りをつけ、過去形にしているのがあまりにも切ないし、同時に強い娘だなぁと感じた。

この√は有希にとっては辛い結末になってしまうが、同時に有希が最も強くなる、成長するお話であり、故に一番心を揺さぶられた。そして、そんな手紙を見て計り知れないショックを受けた主人公の側に寄り添い、支え続ける紗英の姿というのも素晴らしい。役不足だろうが、辛い時はあたしがひっぱってあげたい。そんな彼女の思いやりの心に再度涙を流すのだ…。

話の持っていき方だったり、千佳のお話だったりに不満を感じたが、核となるお話自体は良かったので最終的には満足のいく作品になったかなと思う。また、前日譚での補足なんかもこの作品の良い所の一つだろう、あれのおかげで更にキャラクターの心情なんかが伝わりやすくなった。後味の悪いスタートからこんなに晴れ晴れとした気持ちになるとは思わなかった。こういう作品に出会うと嬉しくなる。