主人公の動かし方及び物語の展開にはあまり好感を覚えなかったものの、たった一つの光が最後まで作品を照らし続けてくれた。墨小菊、彼女に出逢えた事実がただただ嬉しい。
中国を舞台にした三角関係青春恋愛AVGということで、目に入った瞬間に好きそうだなぁと。三角関係といえば某名作がパッと浮かんでくるが、題材が似ているだけはなくて、背景音楽の使い方やキャラクターの台詞なんかも近いものがいくつかあったので、もしかしたら意識しているのかもしれない。
とまあ絶対に好きになりそうだという気持ちを胸に読み進めていったわけだが、読み進めている最中の作品に対する正直な感想としては「イマイチ」だった。物語が始まるとまずは関係構築からということで、本作のヒロインである文菫と墨小菊と仲を深めていくところか始まる。それ自体は自然なのだが、主人公の言動が少しずれているというか、悪く言うとなぜそれでヒロインが良い反応をするのか理解に苦しむ場面がいくつもあるのが痛いなと。
序盤はもしかしたら翻訳が適切でないのかなとも思ったが、どうやらそういうわけではなかった。主人公の無神経な行動を見て傷付く墨小菊を見る度になぜ…なぜ…という気持ちにさせられた。ただまあ、主人公が屑なのは三角関係ものあるあるなので、ある程度は温かい目で見守っていた。
ヒロイン分岐が成立し、どちらかのルートに分岐することで、主題として挙げられていた三角関係青春恋愛がようやくスタートする。絶対に墨小菊のハッピーエンドで終わりたいと考えていたのもあって、最初は文菫ルートを選択したわけだが、これがまあ辛い。
「これからも、あんだが傍にいて欲しい…その手で頭を撫でてもらいたい…」
「一緒に絵を描いて…一緒にとなりで寝て…」
「私が願ってるのは…絶対にあんたと別れたくないってこと…」
「…10年間…あんたをずっと…」
寝ている主人公に対して、今まで言えなかった気持ちを始める墨小菊を見て、ああこの作品に手を出してみて良かったなと心の底から思った。普段はツンケンしていて、触れ合うことすら拒む態度をとっている彼女が、寝ている主人公にそっと口づけをする。こんなにも自分の好みのど真ん中を突いてくる幼馴染は久しぶりだったので、つい気持ちが昂ってしまった。
しかし、やっているのは文菫ルート、そんな幸せな時間が長く続くことはなく、徐々に主人子と文菫の距離は縮まり、墨小菊との距離は離れていくのだ。もう後半は辛くて辛くて、自らの身体を差し出してまで主人公を引き留めようとする墨小菊を見て、なんて軽い気持ちで始めてしまったのだと思う瞬間が多々あった。
「あの子がまだ好きでも…心が彼女のものでもいい…」
「―ただ、あんなのそばに居られれば…それでいい…」
そんな今にも潰れてしまいそうな彼女だったが、そのまま潰れたりはしない。これが彼女の魅力であり、本作の魅力に直結していると私は考えている。自分ではなく文菫を選んだということを文菫にはっきりと伝え、主人公の恋を間接的に後押しする。そして、二人が無事結ばれたことを確認して、一人こっそりと涙を流す。…もうこんなの好きになるしかないだろう、絶対に幸せにしてあげたいと思ったし、彼女のルートを後に回して本当に良かった。
とそんな感じで墨小菊と共に傷付き、墨小菊の成長に感涙したというのが文菫ルートの感想だったが、それは墨小菊でも同じ。彼女のルートに入ったにもかかわらず彼女が傷付くやりとりが無数に用意されているのだ。そう、本作は三角関係青春恋愛AVGなのだから。
ただ、文菫ルートの時もそうだったが、三角関係の協調の仕方が少し雑で、主人公が不自然な行動、台詞をすることでギスギスしていく感じなので、無理な人は本当に無理だろうなと。三角関係モノが好きな自分としても主人公が不愉快というより、脚本に対して不満を抱いていた。
後半になると文菫寄りのシナリオになっていき、彼女にあまり魅力を感じていない身としては辛い時間が続いた。魅力を感じないというか、魅力を感じる部分があったにはあったが、後付け感が強く拒否反応が出てしまったという方が正しいかもしれない。結局、全編を通して子供な彼女を見てプラスの感情を抱くことはなかった。子供も愛嬌があれば可愛いのだが...。
では墨小菊ルートは楽しめなかったのかというと、そうではない。先程も述べた通り、このルートでも墨小菊の成長が見られるからだ。恋敵であるはずの文菫のために動き、自分が傷ついてまで彼女に尽くそうとする。なぜならば彼女は文菫のことを恋敵ではなく、親友だと思っているから。後半はもう主人公より主人公らしくなってくれて、どこまで良い女になっていくのだと苦笑してしまう瞬間も多々あった。
一番傷付いて、一番泣いたはずの彼女が、一番成長してくれる。そんな光景を見て涙を流さないわけもなく、彼女というキャラクターに出逢えたことが何よりも嬉しかった。
振り返ってみると墨小菊の感想ばかりになってしまったが、それほどまでに彼女の存在は大きかった。というか彼女がここまで良いキャラクターで無かったら好きなポイントがほとんどなく、作品に対する評価ももっと低くなっていただろうと思う。墨小菊という少女に出逢えたこと、それが唯一にして最大の喜びだった。ありがとう。