三角関係という切なくも美しい話を描きつつ、その様子はどこか微笑ましい。バランスが丁度よかったかなと思う。登場人物の想いもしっかりと伝わってくるし、周りとの繋がりなんかも大切にする。読んでいてとても楽しく、終わった後は清々しい気分にさせられる。そんな作品だった。
お金を渡すことであたかも彼氏のように振る舞ってくれる。この「レンタル彼氏」はここ数年現実でも話題に上がることが多く、それだけにイメージしやすかった。しかしまあこんな不純で下衆いアルバイトを誰がしているのかというと、それが主人公だったわけだ。
レンタル彼氏として序盤から多くのヒロインに対し、その責務を全うしていく。そのどれもがあくまで仕事でやっているものであり、情などにほだされないというのが一流であり、下衆であった。中でも絵未との出会いは笑ってしまうほど酷くて、ちょっぴり絵未が可哀想であった。
そんな鬼畜に思える主人公も実はしっかりと人の心を持っていて、何故あそこまでお金に拘っているのかが分かる回想が差し込まれているのも良かった。妹がらみになるけど途端にだめになる主人公だけれど、その光景の中で彼にとって妹がどれだけ大切が伝わってくる。親がいない代わりにと、月にはできるだけの事をしようと努力してきた主人公が、己の無力さ、頼りなさを実感し落ち込む姿なんて見ていて辛い。
また、妹の月ちゃんも月ちゃんでただ守られるだけの存在ではなく、頑張っている兄のためにと家事をしているのなんかも良い。彼女があんなにも兄の事を気にかける、あるいは叱ったりするのは本当に大切な存在だからなのだ。お互いがお互いを唯一の家族として想い合っている。これがこの作品の魅力の一つだと思う。
そしてこれはヒロインごとのお話に派生した時も同じで、月がそのままフェードアウトすることなどない。話の中で絶対にどこかで絡んでくるというのがとても嬉しい。だって主人公にとっては妹こそが世界の半分なわけなのだから。
主人公と妹の関係の良さについては一部分一部分を切り取って語っていきたいところではあるがまあこの辺で、次にそれぞれのヒロインについて√ごとに感想を述べていきたいと思う。
<椿√>
クールな女教師かと思いきや結構ユニークな方で、可愛らしいなぁと感じる場面も多々あった。中でも対戦ゲームでヒートアップしすぎてキャラがどんどん崩れていくのなんかは面白くて、何となく惹かれていった。
この√の主人公はキャラが変わったように椿さん好き好き状態になっていて、あの仕事として割り切っていた主人公はどこに行ってしまったのかと問いたくなるほど。まぁ大人の魅力には抗えないということなのか、下半身に忠実なり始めたので笑った。
ただ、お話はまあまあ良くて、新しい家族として主人公だけでなく月のことも支えてきたいというのが素晴らしい。「私を家族として頼りなさい」そんな力強くて愛のある言葉を懸けられた主人公の気持ちはどんなだっただろうか。あの膝枕のワンシーンはとても好きだ。
この√が月にとっては一番良かったのではないかと。それくらい椿は月思いで、それは私としてもとても嬉しいものだった。シーンの連発が目立つが私は結構好きなお話だったりする。
<ちなつ&こなつ√>
最初から最後まで主人公にデレデレの二人。個人的にちなつのちょろい感じが好みだった。ただお話に関しては、退屈極まりない。途中良い感じの回想が差し込まれたり、真面目な話になって少しは読みごたえがあるかなと感じ始めても、結局ギャグっぽく終わってしまう。まあシリアスな雰囲気を吹き飛ばしたかったのかもしれないが、私にとってそれは悪手以外の何物でもなかった。
<咲希√>
処女ビッチガールの咲希ちゃん。まあそんなキャラ設定だからこそ主人公に何かとちょっかいをかけてくるわけだが、読み進めていくうちに慣れてきて。微笑ましさすら生まれる。
そんな彼女はサブヒロインであり、友達の彼女に手を出してはいけないという文言の下幕を閉じるわけなのだが、それなりに良い。まあ「良い」というか「えっち」なんだよ…。誘い方がえっちでその後の初心な反応もえっち。声色があまりにもずるいのだ...。
<桃子√>
バッキ―のネトゲ友達、ネトゲ界の閃光、ピーチフラッシュこと小関桃子さん。その独特なキャラ設定と、レズのように感じるほどの友達想いの彼女は、友達の友達という立ち位置にピッタリだった。
この娘も咲希と同じくサブヒロインなのだが結末が中々に印象的。何処までも都合のいい女で、でもだからこそくるものがある。そう、彼女だって何も感じなかったはずはないのだ。
「たった一日で好きになって恋愛して、挙げ句失恋まで経験できるなんて。」
こんな恋物語があっても良いよねという感じでほんのり染み入る、切なくも素敵な終わり方をしていた。さらっとぶち込んできたがこういうの大好き。
<絵未√>
初めから読み手の心をぐっと掴んでくるようなおもしろかわいい女の子だった。感情表現が豊かで、「><」という表情がとてもお気に入り。また、すぐ泣きだしちゃうところなんかも愛らしいし、いつの間に彼女の反応を見たいがために読み進めている節もあった。
最低なやつだってわかっているけど気になってしまう。そしてやがてそれは好きという気持ちへと変わっていく。彼女の恋心を自覚するシーン、例のあの場所で主人公と八純(その時は誰かはわからかった女の人)が一緒にいるところを見てしまうところはやはり良い。これまでの事を振り返り、関係を見直し、それでもなお好きという気持ちが止まらない。ああ苦しいけど素敵だ。
ライバルと認めてからは彼女の元々の性格であった頑張り屋さんな一面が出てきて、八純に負けないくらいガンガンアタックしてくる。彼女の純粋な性格も相俟ってその様子がとても愛らしい。
そうして恋の戦いを制した時の嬉しそうな顔といったら。それから口癖のように「幸は私の彼氏だもんっ」というのがとてもとてもかわいい。一緒にいる時間が増えた分、一日会えなかっただけでもやもやしてしまうなんてのも恋する乙女らしい。
八純に対しても、やはり恋人バリアーは張るけれど、幼馴染で友達の彼女を遠ざけたりはせず、いつもと同じ距離感で接するというの結構好きな部分だったりする。まあ少し介入しすぎだろと思う瞬間もあったが、あれはあれで周りとの関係を大切にしているのだからいい。
しかもプレゼント選びのためにという目的もきちんとあったわけだからもうたまらない。しかしまあ、あのシーンは八純の心情が描かれていて辛い。ああ、あんな感じで諦めてくんだなぁとしみじみしてしまった。まあそんなわけはなかったのだが。
結末も彼女らしく楽しく明るくといった感じでスッキリしていた。
<八純√>
そのミステリアスな雰囲気から絶対に好きになるタイプの女の子だとは思っていたが、やはりその通りだった。たまに素手照れてしまう場面だったり、「にゅふふ」という笑い方の裏に隠されたわけだったりというのがたまらない。加えて彼女が主人公の事を好きになった回想及び、はじめて主人公と話した時の回想が素晴らしい。特に後者に関してはドキドキがこちらにも伝わってくるような、甘酸っぱい思い出話だった。
「本当にただ名前を書くだけ、それでも私の卒業アルバムの落書きページに大切な思い出が刻まれる」
こんなエピソード持ち出されたら彼女の事をもっと好きになってしまう。にゅふふって言っちゃうよ。あとその時の八純ちゃんがめちゃくちゃ可愛いのだ。それも作中で一番と言っても良いほどに。
そうして実は一途な女の子だったと分かると後はもうどうか、どうかこの娘と…と思うばかりだった。だからこそ絵未を選ばねばならない時は辛かった。作り笑いで二人を見送って、自分は一人静かに涙を流す。あの光景があまりにも辛くて仕方なかった。
その反動もあり、彼女の恋が叶った時の喜びは凄まじかったし、彼女の反応も本当に嬉しそうで嬉し涙が出そうになる。愛しの彼のために進路を変えて、会えるかもしれないという期待を胸に毎日のように夜歩き回って、怪しまれないためにキャラまで作って、そんなこんなでようやく叶った恋だ。そりゃあ嬉しかっただろうなぁ。結ばれたという事実があまりにも大きすぎて、それ以降のお話は何をやっていても幸せな雰囲気が漂っていた。
また、この√も絵未との関係は大切にしており、結末も二人一緒の一枚絵。とても清々しい気分にさせられた。初めて一緒に登校できるのが嬉しすぎて始発出来たとかもね、破壊力があり過ぎる。これからも彼女は主人公のことを一生好きでい続けるのだろうし、そんな様子が見られるのもここまでだと思うと少し寂しい。
総評するとやはりメインの二人がよかったかなと思う。お話も掛け合いも楽しい作品だった。