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asteryukariさんの源平繚乱絵巻 -GIKEI-の長文感想

ユーザー
asteryukari
ゲーム
源平繚乱絵巻 -GIKEI-
ブランド
インレ
得点
79
参照数
886

一言コメント

思う所もあるが、読み切ってみての感想としては楽しかったなぁと。読めば読むほど家臣たちの事を好きになっていった。

**ネタバレ注意**
ゲームをクリアした人むけのレビューです。

長文感想

長らく待ち続けていたインレの新作。いきなりタイムスリップなんて要素を盛り込んできて多少驚いたが、それによってまた違った楽しみ方が生まれていたのが良かったかなと思う。現代の知識をもとにどう時代を生き抜くか、またどうやったら現代に帰ることが出来るか、それを模索している様子は読んでいてなかなか面白かった。

毎度のことながら主人公はモテモテであり、はじめからメインヒロイン二人に惚れられていることは勿論、敵として相まみえた敵も次々と主人公に魅了され、家臣になっていく。そうやって家臣を揃え、義経を演じることで物語が進行していくわけだ。

では主人公に魅力があったかというとそれは頷きにくいところで、別に武道を習っていたわけでも喧嘩が強いわけでもなく、ちょっと運動神経がいいだけなので基本的には魅せてくれる戦闘描写なんかはない。また、だからといって学があるわけでもなく、史実の事はヒロイン二人に頼りっきりであった。言動だけは一丁前なのが面白い。

まあそんな感じで頼りにはならないタイプの主人公だったが、そんな彼が少しづつ少しづつ逞しくなっていくのは良かったかなと。言い回しのセンスは最後まで成長していなかったが、それもまあ彼らしい。少なくとも序盤に感じた苛立ちなんかは薄れていた。

主人公についてはこのくらいで肝心の中身について語っていくが、最後まで駆け抜けてみた感想としては終盤こそツッコミ所が満載だが、それを加味しても充分面白かったなと。インレ作品をやっていると毎回思う事だが史実に沿って進められている時は非常に面白い。これは史実自体が面白いのも勿論大きいが、上手く物語組み込めているからだと思う。

以下チャプターごとの感想


◆源平合戦編
最も有名であろう史実に沿った物語で、担当ヒロインは紫都香。少し懐かしさを感じる正統派ツンデレヒロインで、声優さんとの相性も良くそれはもう可愛らしいキャラクターに仕上がっていた。常に主人公を支え、誤った道に進もうとしている際にちゃんと止めてくれる、その強さが何よりの魅力だった。

内容はまあ面白くて、単純に主人公側優位で事が進んでいくのは読んでいて爽快感があるし、かといって平氏側を単なるやられ役にしなかったのも凄く良いなと。敵陣の視点を細かく挟むことで戦場に緊迫感が生まれ、それにより命を奪う事と奪われる事、その重みが伝わってきた。特にそれを感じたのは屋島の戦いで、双方の気持ちを考えるとやるせないと感じる一方で面白く書いてくれるなぁとも。

源平合戦編は一章という事でかなり仲間の存在を意識した作りになっていて、各キャラごとの個別√こそないが、家臣たち(特に四天王)には必ずと言っていいほど見せ場が用意されていた。その中でも印象的なのが武蔵坊弁慶であり、彼女の強さと献身には心をがっちり掴まれた。

後先考えず刀狩りばかりしていた彼女が好きな男に惚れ、己の人生のすべてを懸けると誓った。その誓いに嘘偽りはなく本当に最後まで義経という神輿を担ぎ続けてくれた。そんな彼女の生き様に心底惚れてしまった。メインヒロインはおろか作中で一番好きなキャラクターかもしれない。

源平合戦編は突如として終わりを迎えるが、物切れ感はなく次の物語への期待が更に高まった。義経を殺めた際に聞こえてくる声で誰がやったかはすぐわかってしまうが、なぜそんな行動をしたのか、また新しい疑問が生まれる感じが良かった。


◆北方伝説編
二章は義経が平泉で命を落とさず、北へ逃げ延びたという説を元にした物語で、担当ヒロインは楼子。妹でありながら主人公との血の繋がりはなく、天涯孤独の身という勝利が約束されたようなヒロインだった。幼少期の回想が挟まれているのも良い。

壇ノ浦の戦いの後を描いたお話で、今回は平氏と協力することになる。協力するとはいえ今まで敵同士だった者たちとすぐに仲良くなれるはずもなく、衝突しまくり疑われまくりの日々が始まる。嬉しかったのがきちんと屋島の一件に触れてくれた点で、√分岐して関係がリセットされたわけではない、「戦」というものを意識した作りになっていた。

新たに仲間として行動を共にするようになった平教経が個人的にかなりツボなキャラクターで、警戒心の強い堅物な女性であることは勿論、他とは違って主人公に惚れていない点が素晴らしかった。主人公には容赦のない物言いをするし、時に刃を向けたりする。けれど戦場では肩を並べて戦っている、その関係性が実に良い。最強とうたわれた敵が最強の仲間になっているだなんて、その頼もしさといったらもう。

終盤になると主人公の一つの目的でもあった鬼一の登場により物語が一気に加速するが、同時に怪しさも出てくる。ただまあ、その得体の知れなさがわくわく感に繋がっていたのも事実で、それを含めてこの北方伝説編の出来はとても良かったなと。本当に退屈に感じる瞬間がなかった。


◆偽経編
これまでの物語とは打って変わってファンタジー色の強い内容になっていた。妖怪たちを絡めてくるとは思っていなかったので、一気に世界観が変わってしまった感覚だったがまあこれもアリなのかなと。十種神宝なんてそそるワードが出てきたのもあって、私としてはそれなりに楽しんで読んでいたと思う。鬼一の正体についても初見は驚くより先に吹いてしまったが、妖怪との繋がりも納得がいくものだったのでまあ...。

経久については何となくそんな予感はしていたので意外性はなかったものの、彼女の説明によりモヤが次々と消えていくのは嬉しかった。まあ少し後付け感はあったが。右胸心のくだりなんか「成程!」となったプレイヤーはいないのではないだろうか。

そんな感じで他の部分を見てもツッコミ所満載だったが、良い点も勿論あって、それは為朝の使い方だ。序盤にそれとなく彼の強者たる所以に触れておき、最後の最後で仲間に加える。そんなの気分が高揚しないわけがなくて、実際に作中でもぶっちぎりに強かったのも良い。

彼女が考案した妖怪に対する策も少年心をくすぐるもので、途中までは楽しんで眺めていたのだが、相手を正気に戻らせる効果は不要だったかなと。せっかくの忠信の躊躇いが台無しになっていた。

最後の戦いについてもまあツッコミ所しかないが、ある意味この章らしかったのかなと。主人公が最初から最後までダサくて安心した。

オチは結構好きで、感動こそ薄れたが家臣たちを強く想っていた身としては嬉しかった。





振り返ってみるとなんだかんだ楽しい作品だったなぁと感じる。最終章については思う所もあるが、大きな不満を感じたわけでもないのでこんなものだろう。ちゃんと素敵なシーンは詰まっていたし、読んでいて飽きることもなかった。充分の出来だったと思う。

次回作も楽しみにしています。