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asteryukariさんのとも鳴りの舟 ~Empty room We onry satisfy~の長文感想

ユーザー
asteryukari
ゲーム
とも鳴りの舟 ~Empty room We onry satisfy~
ブランド
サキュレント
得点
84
参照数
229

一言コメント

テキストに仕込まれた笑いのおかげか、読めば読むほど登場人物たちの事を好きになっていく上に物語までしっかり面白い。期待値を大きく上回る良作であった。まさかレイプ魔に目を奪われる日が来るだなんて…

**ネタバレ注意**
ゲームをクリアした人むけのレビューです。

長文感想

売れない風俗嬢が主人公という事で、半分くらいはそこに惹かれてプレイしたわけだが、開幕早々日本語の通じないタイプの男が登場して、一気にそっちへ意識が行ってしまった。

このレイプ魔こと白木牧人というキャラクターがもう本当に面白くて、彼の存在が本作最大の魅力だったと言っても過言ではないだろう。レイプした後、「なんか射精すると眠くなるんだよ。寝ていい?」と言い出したあたりで既に心を掴まれていた。

強姦した上に食べ物まで漁って、そこからはまるで友人のような面で接してくる。そのふざけた神経が個人的にかなりツボで、吐瀉物を見て興奮するなど性癖が異常な点も最高だ。何かと喚くたがねに対して、冷静なツッコミを入れているのもまた面白かった。

たがねもたがねで良いキャラしていて、気弱なタイプかと思いきや案外感情が口に出るし、コミュ障と言いつつも牧人の前だとよく喋る。必死で疑問を投げかける彼女と、それを冷静に対処する牧人の会話は見ていて本当に飽きることがなかった。月10のくだりなんかは大好きだ。

そんなレイプ魔と被害者の関係だとは到底思えないような二人だが、性病の発覚をきっかけに次第に仲を深めていく。やっと関係が落ち着くかと思いきやそうではなくて、牧人は奇人さにますます磨きがかかっていく。おま●こ=宇宙論なんてふざけたことを話し始めた時は笑い死にしそうになった。しかも微妙に納得のいく説明をしてくるから困る。

話が進むにつれて、たがねの周りで様々な問題が起き、何からも逃れられない彼女の悲痛の叫びを聞くことになるが、決してシリアスに押し潰されたりはしない。そう、彼女には頼もしい変態がいるのだから。トリッキーすぎる解決方法で彼女を守り抜いていく牧人さんが本当に面白く、そしてかっこいい。それまでの行いが特殊過ぎて忘れていたが、そういえば顔もかっこよかったなと終盤になって初めて気付いた。ただ、忘れてはいけないのはレイプ魔であるという事実。それも意識して読むと…やはり笑いが零れてしまう。

終盤は視点の切り替えを上手く使われていて、気になっていた牧人の過去とそれから本心が見えてくることになる。そこの深掘り具合も丁度良くて、牧人にとって、それからたがねにとって重要な情報だけを抽出していた。おしっこで張り合うたがねを見て「ああ、立派な変態になってしまったなぁ」と思わず笑みが零れた。まさにお似合いの二人と言っていい。

エピローグも凄く晴れやかな結末を迎えていて、なんだかこちらまで良い気分になってしまった。変に家族の問題を解決しようとせず、彼女の言った通り「逃げること」を選択したのが素晴らしい。結末としてはこれ以上にない素敵なものだったと自信を持って言える。


何となく好きそう程度では済まない、かなり好きな作品になってしまった。暗めで救いようがない話というのも勿論好きだが、本作や最新作である「痴者の夢」のようなタイプの作品の方はもっと好きなので、またこういった新作を出してほしいものだ。