互いの描きたかったことが上手く噛み合っていたように思います。また、売り出し方は変わっても芯は変わらないのだなと、それを強く実感しました。
多くのエロゲ会社さんがソーシャルゲームに注力するようになってしまった中、ビジュアルノベルで攻める。しかも本作は非18禁でありながら、先行配信された中国で大人気とのこと。素直に嬉しいですね。好きなブランドだからというのは勿論ですが、それ以上にビジュアルノベルというジャンルにも未だたくさんのファンがいる事実が嬉しいのです。
さて、本作は1988年のバブル期の日本。古いモノが消え、新しいモノが次々と生まれていく時代。それも東京を舞台にしていました。まあ面白くなりそうな時代、場所をチョイスしたなと。そんな中で人と人との関わりを描いていくわけです、つまらないものが出来上がるはずもない。
普段のねこねこソフトと違うのは、やはり他国との交流に目を向けていた点でしょうか、作中で中国語を用いることで、一筋縄ではいかない壁を意識させる。もし私が中国人であったら、「わかるわかる」と共感できる点が多かったのかなと思います。価値観については特にそうだろうなと。
また、中国側の事情についてやや攻めがちに書けたのも、協力があったからこそのものなのかなと。不正入国、密輸、それから文革なんかも。もし、この作品が日本人のみで制作されたものであったら、もっとぼかされた内容になっていただろうなと感じました。というか結構書いちゃっていいんだなと、向こうの国との価値観の違いに驚きましたね。
そして、黒い部分を描くのは中国人だけでなく、日本人も同様という点がとても良かったです。中国人であると理由だけで蔑んだり、言葉が通じないために助けてあげなかったり、実際にそういう光景を目にしたことがあるからこそ胸に来るものがありました。個人的にここが一番、中国の方にウケた点なのではないかと思います。にしても「そのチャリで国に帰れよ」は酷すぎる...。
といった感じでプロジェクトとしては成功していたのかなと思います。少なくとも日本側のスタッフさんの反応を見る限り、失敗はしていないでしょう。
続いて中身についてです。時代や場所を意識させるつくりではありましたが、メインはやはりシナリオでしょう。季節に負けない心温まるお話が書かれていました。
古びた駅舎に「住むだけで良い」というバイトを通じて、中国人の景と日本人の栞奈が関係を深めていく。一緒に生活することで次第に言葉の壁をなくなっていく…といったご都合展開はなくて、中盤までは挨拶すらままならない状態でした。そこで投入されたのが栞奈の妹、絵美ちゃん。後の展開も含めて彼女はこの作品におけるキーパーソンと言っていいでしょう。
三人の生活が始まってからは頬が緩む瞬間ばかりでしたね。オープンカフェの話なんかはねこねこ過去作を思い出しました。そんな温かい日常だけで終わらせないのもまた作者らしいというか。
終盤は本領を発揮してきたと言わんばかりに暗めの話が続きますが、それを包みこむような素敵なやりとりが描かれているので読んでいて辛いと思う場面はあまりなかったです。特に栞奈ちゃんの「中国人で悪いか」は感慨深いですね。
彼女も初めは景のことを外国人だからという理由で交流を避けている節がありました。しかし、共に生活していくことで彼も同じ人間であり、魅力も見つけることができたわけです。それを踏まえつつ読むとかなり心に響きました。
また、江さんの過去を交えつつ物語が進行していく点も良くて、故に30.5話がすごく好きです。かつて手放してしまった「大切なもの」、それを追い求めている人間が身近にいる。自分はもう戻れないけれど、それを後押しすることはできる。だからこそあの小切手なわけです。不審がる景に向けた「色々あんだよ」もグッとくるんですよね。詩織さんとの確かな繋がりを感じました。
いやぁ、軽く振り返ってみても良いお話だったなと、うっとりしてしまいます。派手さはないですし、ギャルゲー的要素を求めている人からしたら物足りないかもしれませんが、私としては満足のいくものだったなと。
あと、ねこねこ過去作に関わる小ネタが本編の邪魔にならない程度に仕込まれていたのも嬉しかったですね。夏といえばやっぱりラムネですし、スイカすぺさる(ななみすぺしゃる)が浮かびます。ソフトに同封されていたマニュアルの件といい、ともさんは本当にラムネが大好きなんだなと。勿論、私も大好きです。番外物語もおまけの中のおまけみたいなボリュームですが嬉しかったですね。世代の方にはたまらないでしょう。
今後はねこねこソフトとして20周年の新作を出してほしい気持ちを抱きつつ、また本作のようなビジュアルノベルも出してほしいなとも。期待に胸が高鳴るばかりです。
心温まる素敵な作品をありがとうございました。