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asteryukariさんのEVE rebirth terrorの長文感想

ユーザー
asteryukari
ゲーム
EVE rebirth terror
ブランド
El Dia
得点
86
参照数
613

一言コメント

君が鼻の伸びる木の人形でも、私は君を人間だと思うよ。

**ネタバレ注意**
ゲームをクリアした人むけのレビューです。

長文感想

発売から数十年経ったあの作品の続編ということで、リアルタイムでプレイしていたらもっと興奮していたのだろうなぁと。まあ直近にプレイしたからこそ作品の雰囲気、個々の登場人物については記憶に新しい。そんな私ですら何ら違和感を抱かないほど、この作品は前作「EVE burst error」に忠実に作られていた。これの何が凄いかって、ライターさんが全然違う人なのだ。

世界観、キャラクターらしさは勿論、システムや選択肢まで前作に忠実に仕上げてある。特に脱いだり、踊ったりする選択肢があったのは嬉しかった。恐らく何度も何度も読み込んだのだろう、読み始めて早々、その熱量にただただ驚かされた。

そして、この作品が凄いのはそれだけじゃない、純粋に話が面白いのだ。それも読み進める手止まらないほどに。

序盤から新キャラクター達が続々と登場してきて、前作の雰囲気を保ちつつ新しい物語が始まることを予感させる。それからしばらくは新キャラ達と小次郎、まりな視点で絡み、探し物をしながらも基本的にはのほほんとした雰囲気で進行していく。だからまあ私も麻世ちゃん超かわいいなぁ~と平和ボケしながら読んでいたのだ…。

事件が起き始めたらもう止まらなかった。burst errorほどのミステリー要素は散りばめられていないものの、怒涛の展開とその面白さから手を止める暇なんてなかった。作品に見入り過ぎて喉が渇きっぱなしになるなんて経験をしたのはいつ振りだろうか、とにかく夢中になって読み耽っていた。

特に隠し部屋を見つけてからの面白さは圧巻。ようやっと謎だった部分が見えてきた事に加え、緊迫した敵とのやり取り、もうたまらない。しかもその相手はあの二人だという点も心躍る。本当にどこまでもリスペクト精神を感じる作品だ。

他にも某ナースだったり、実は新キャラの多くがエルディアに関わる重要な人物だったり。まあキャラクターについては個々に語りたいので後述するとしよう。

そんな感じで、とても楽しくはらはらどきどきしながら読み進めていったところで一区切り。おいおいここで止めるのかよ…と膨れ上がった作品に対しての熱が急激に冷めていく…ところだった。油断した、まさか氷室視点なんてものが追加されるなんて。ちなみに氷室恭子はburst errorで最もお気に入りのキャラクターだった。そんな私がこんな唐突に私が望みうる最大のプレゼントをもらって正気でいられるはずがない。あまりの喜びにようやく読み進める手が止まった。

しかもその氷室視点のお話の出来も非常に良くて、これまでの出来事の裏で何がどう動いていたのかが把握できることは勿論、氷室の小次郎に対する想いなんかも描かれていて、終始満面の笑みで読んでいた。初めは単なる仕事仲間、協力関係だと思っていた彼がいつの間にかかけがえのない人物になっていたのだと、涙しながらそう悟る彼女を見てこちらもうるうる。あの仕事人間にも見えた彼女がありふれた生活の楽しみを知るなんてさぁ…。

行動する度に小次郎を思い出し、果敢に駆け巡る彼女は実に良かった。特に研究所に侵入す時なんかはburst errorのデータロック解除のやり取りを思い出した。

その後ピンチの中、再会を果たした二人の会話なんてもう相棒以外の言葉が見つからないし、タイミングも絶妙だった。氷室恭子ファンの方は皆、幸福に包まれたであろう。


そして、事件解決編だ。本作の最後の敵であろう橘桜花とのお話は面白かったし、落としどころも綺麗なモノだったと思う。でも一番見入ったシーンはそこではないのだ。本条まりなさん、あんたどこまでかっこよければ気が済むんだ?彼女の圧倒的な主人公っぷりにやられた。加えて杏子だ、あの銃が下手だった彼女がと思うと鳥肌が立たないわけがなかった。あと髪の件は爆笑した。

そうして事件も無事解決して安らかなエピローグがやってきたと思っていたらあのサプライズだよ、ほんともういい加減休ませてほしいものだ。結局最後まで感情の高ぶりが続いてしまった。「大切なのは前日譚!EVE!」じゃないよまったく…。

あの結末に関しては賛否両論あるのかなと思う。でも私はまりなを、ライターさんが描きたかった結末を喜んで受け入れたい。あれだけ切ない道を歩んでいたのだ、これくらい良いだろう…。

こうやって感想を書いていても好きな場面を思い起こせばキリがない。本当に面白く正統な続編だった。さかき傘先生、ありがとうございました。

以下キャラクターごとの感想

●天城 小次郎
あの適当な感じと女性に節操がない所を見て、ああ変わってないなぁと。でもあの事件は彼の中でまだ色濃く残っていて、それを読み取れる場面がいくつもあった。絵画に描かれたプリンを見て「あいつはもっと子供っぽい」と言っていたのが印象に残っている。

彼は本作でもやる時はやるかっこいい男だった。意外だったのは麻世に対する入れ込み具合。そこまで長い付き合いではなかったはずだが、守れなかった彼女に対してずっと後悔の念を抱いていた。これはやはり一年前の事件の影響だろう。私も麻世ちゃんに対しては並々ならぬ想いを抱いていたので、彼がジェスに対し怒りを爆発させるシーンでは完全にシンクロしていた。きちんと始末してくれて本当に良かった。

●法条 まりな
相変わらず惚れっぽい彼女を見て安心した。そしてまた同じようなことになってしまうことにも…。バーボンを頼み「悪くない」と答える彼女を見て胸が締め付けられた。これも男運がないと言っていいんだろうか。

とまあそれはさておき彼女の本作での活躍っぷりは凄まじかった。いや、ほんと惚れなおした。お姉ちゃん好き好きなキアくんがまりなに恋してしまうのもわかる。あんなふうに優しく、柔らかく包み込まれた誰だって落ちるよ…。女としての強さと美しさを兼ね備えた最強の美女だ。

●桂木 弥生
まーーーだ未練たらたらなのかと呆れるほど小次郎好き好きな彼女を見てほっこり。彼に危険が及べば化物のような速度と精度で情報を調べ上げる、その熱の入り方に苦笑してしまった。弥生と小次郎の会話はそこまで多くはないのだが、専用の一枚絵が使われていたり、
会話の内容だったりが二人の関係の深さを示していた。

●氷室 恭子
あまぎ探偵事務所で働くことになった彼女。小次郎と軽口を叩き合うその光景はまさしく私の求めていたものだった。そしてそれを彼女のも大事に思っていてくれたのが非常に嬉しい。

本当に氷室視点を用意してくれたことに関しては感謝の気持ちしかない。物語で活躍する彼女が見れ、彼女の心情も見ることができる。こんなに嬉しいことはない。これからも彼女には小次郎の相棒として、強く楽しく生きていってほしいものだ。

●桐野 杏子
新キャラの後輩ちゃん。取り調べでなめられるわ、みぞおちにナイフ刺されるわ、拳銃のセンスはないわで不憫極まりない彼女だったが、この事件を通じて立派な人間に成長してくれた。取り調べもそうだが、やはりあの狙撃が印象的だ。しかもまだ腹の傷が癒えていない状態であれだから凄い。振り返ってみると新キャラの中でもかなり優遇されていたなと思う。結構お気に入りのキャラクターだ。

●甲野 三郎
「ま~りなくぅ~ん」が聞けなくなってしまったのは非常に残念だったが、手回しの早さは健在だったのでまあまあ。ただ、銃撃戦のシーンは良かった。もう銃なんかろくに握っていないだろうに果敢に撃ってくれるし、自らが盾となって女性を庇うのなんて男の鑑だ。厄介な部下が一人増えて苦労も倍以上に膨れ上がっていそうだが、彼女達をまとめることが出来るのは彼だけだろう。がんばれ本部長。

●音無 橘花
純粋無垢に見えてその生い立ちは壮絶。彼女の小次郎に対する問いかけはありふれた会話のようで、実は本心から疑問を口にしている。それが分かった時の切なさといったら…。ピノキオの例え話なんか涙ものだ。

これまで逃げ隠れするだけだった彼女が唯一立ち向かう。そういった意味でも最後のシーンは好きだ。父親の気持ちはどんなだったか、他の無関係な誰かじゃない、父親を知るもう一人の娘として彼女に想いをぶつけるのが心に染みた。

●リバー
始めから匂わせる人物ではあったが立ち位置は予想外だった。彼は何というか、結局どこの組織にも属さず、最後まで自分の意思に基づいて行動していたなと。D3に言い放った彼のありったけの言葉の数々は一つ一つが重く、深い愛を感じた。良い人だったとは言えないが、良い男だったことは認めてあげたい。

●ジェス
めちゃめちゃ強いのに感情的になりやすく、その結果小物に成り下がってしまった哀れな下衆。プロだからと言つつ、大きな物音を立て感情のままに病院に侵入していったのを見て笑ってしまった。ナイフをカーブさせて攻撃するなんて芸当ができるのだから、もっと強キャラかと思ったのに。でもこの小物感がちょっぴり好きだったりもする。

●サラ
かえる女さん。最後までまりなに負けっぱなしだった彼女だが、その容赦のない行動の数々は悪役として相応しいものだった。杏子の腹を蹴るシーンなんてわりとくるものがあった。そしてそれが起因してまりなの逆鱗に触れたわけだ。エピローグではまりなに対し怒りを露わにしつつも、ちょっぴり怖がっているのが微笑ましい。

●シルディ
異常が目立つサラに目が行きがちだが、そんなサラに依存していないと生きていけないような彼女というのもまた異常だった。この子は私がいないとだめと、そう決めつけることで自分を安定させている。現実でもたまにこういったタイプの人がいたりするので微妙に笑えない…。

●キア
わりと重要な配役を貰っているのにもかかわらず、そんなに活躍はしなかった。ただ、彼のおかげで周辺の家族関係が分かったのは収穫だったのかなと。なぜ彼女のがあんなにも弥生を守ろうとするのか、どうして小次郎を目の敵にするのか、その全てが想像以上に優しいもので和んだ。