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asteryukariさんのSPIRAL!!の長文感想

ユーザー
asteryukari
ゲーム
SPIRAL!!
ブランド
Navel
得点
71
参照数
755

一言コメント

SHUFFLE!にも存在した「神界、魔界、人間界」という世界観を意識した作りになっていたのだが、これが成功だったかと言うとイマイチ。種族の違いが良い方向よりも悪い方向にばかり作用しているのが残念だった。また、無理に世界観を絡めることで話が雑になっている部分も。ただ、キャラクターの可愛さは一級品なので、キャラクターを愛でるような楽しみ方をすればなんとか

**ネタバレ注意**
ゲームをクリアした人むけのレビューです。

長文感想

SHUFFLE!と世界観を共有しているということで本作でも神界、魔界、人間界の三つの世界が存在する。そして今回はヒロインがではなく主人公が異世界からやってくるということで作り自体は似ていた。前作では相手がどういった種族だからなどはあまり気にしなかったのだが、本作では人間でない神族、魔族を意識した会話が多々見られた。

これは主人公であるところのクロムにも関わっており、人間になりすまし学園生活を送るというものだった。ただこの制約はわりとガバガバで、ばれても周囲の反応が変わることはあってもお咎めなしというのがなんとも。ただ、一部のヒロインは人間でないと分かると目に見える反応をしていたので設定自体は腐ってはいなかった。

まあ残念なのはその世界観を重視するあまり、壊さなくていい恋愛日常まで壊してしまっている場面があったことだ。世界観を大切にするのはいいのだが、こうなっては本末転倒である。そして盛り込んできた出来事、事件も一瞬で解決してしまうのが非常に勿体無かった。まるで前作の悪い所を引き継いできたかのようだ。

ただ、何事もない平和な日常を描き続けるとしても、共通で見られたイベントなどを見るに退屈極まりないものになっていたと思うため、まあこうするしかなかったのかなぁと。もう少しポジティブな話題について上手く描けていたなら、より良い作品になっていたに違いない。

以下√ごとの感想

○共通√
主人公が転入生ということでヒロインとの交流から始まるわけだが、これまた癖の強いヒロインばかりで、個々の性格もそうなのだが、共通の段階で悩み事を零したりするため軽い感じで読むことが出来ない。珊瑚であれば神族、魔族に嫌悪感を抱いていること。茨子であれば人間に魅力を感じないこと、好きになれないこと。ただ、これはほんのワンシーンであり、詳しい話は個別√にて語られる。

当然それだけでなく、授業に始まり部活動、文化祭など学校の行事までもしっかりと組み込んでくるのだが、ただ色々入れてみたという感じで面白味を感じられるものが少なかったのが残念。体育の時間のヒロイン別CGは綺麗だったし、えっちではあったのだが、それだけだったかなと。


○珊瑚√
努力家で責任感もある常識人なのだが神族、魔族に対して物凄い嫌悪感を持っているという。彼女の内面に潜む闇について茨子さんが感づいていたのが面白かった。その嫌悪感の強さというものは生半可なものではなく、てっきり主人公補正で押し切れるだろうと思っていたのに打ち明けた時は拒絶されるという。えっちまでした仲なのに…どんだけ嫌いなのよ。

この√は心を揺さぶりそうで揺さぶらなかった。その原因はオーブに込められていた父のエピソードの簡素さにある。もう少し過去の出来事についての説明だったり、専用のCGを用意するなりして感動的なものにしてほしかった。これでは雰囲気だけで微塵も感動できない、ふーんで終わってしまう。

また終盤にサラッとクロムの出生の秘密、両親について触れられていたが、こちらの情報の方が目を引いてしまい、もはや珊瑚の話はなんだったんだと思ってしまった。


○茨子√
クールで人間嫌いという取っつきにくい性格をした彼女だが、言っていることの多くが的を射ていて共感できるものもしばしば。普段きつい態度な分、付き合い始めてからの可愛らしさは止まることを知らない。デートの際の初々しさもそうだし、夜の時も大変えっちでよろしい。

実は彼女の人間嫌いは過去に両親を失ったショックによるものだったわけだが、この事実を挟んでくれて本当に良かった。あれだけ二人の愛情には答えられないと思い悩んでいた彼女が知らせを聞いて飛んでいく、そして声を出すほど涙を流す。あの彼女がこうも人間臭いことをするなんて、そう思うと胸が苦しくなった。涙が出るわけではないのだが、何というか彼女をさらに好きになった。

エピローグで両親に対して「鬱陶しいくらいに」と言いながらもどこか嬉しそうな彼女が忘れられない。


○みずき√
天真爛漫な女の子。とにかく可愛いらしい。容姿と言動、行動というのが抜群に合っていて、まさに癒し役であった。その明るい性格からは考えられないほど負けず嫌いで、それは告白の場面なんかでよくわかる。好きになってもらえるよう努力する、その姿勢が素敵なのだ。

また、みずきちゃんだけでなく、みずきちゃんの両親も良いキャラクターしていて、みずきちゃんは蝶よ花よと愛でられながら育ったんだなというのが伝わってきた。家族も主人公には寛容というかむしろ歓迎していたため、家族と主人公との絡みに期待していたのだが…。

あのタイムスリップ設定、彼女の出生に大きく関わっているのは間違いないが少々やりすぎなように感じた。最後こそ実は本当の娘だったことがわかり良い感じで締めに入ったが、問題が起こった時のわけのわからなさ、そして問題解決までのスピード。ポカーンとしてしまった。後日談として家族とみずきちゃんの会話なんかがあれば、多少は目を瞑ったかもしれない。

○ローズ√
いつも微笑みを絶やさない謎が多いキャラクターだったため、何かあるだろとは思っていたが、本当に何もなかったとは。いや、出生については驚かされたが、結局ただの人間なわけで肩透かしを食らった。これでどう話を展開していくのかというとまあ、そう面白い展開になるはずもなく、一番謎が多かったにもかかわらず、一番普通にイチャイチャする√だった。

ただ、お互いに正体を隠していた二人が、お互いに正体を明かし、その上で愛し合っているのは良かった。大事なのは正体ではない、誰であるか。ローズさんはローズさん、クロムくんはクロムくん。そんな当たり前にも見える掛け合いがこの時は素敵だなと感じた。


ちょこちょこ不満を述べてしまったが、大きなマイナス点はない。まあシナリオに関して言えばプラスな点もないのだが、キャラデザイン、塗りなんかは高水準だったかなと思う。そうなるとシーンが少ないのが勿体無いところではあるが。まあキャラを愛でる作品かなと。私なんかは茨子さんが好みのキャラだったので十分楽しめたと言っていいだろう。