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asteryukariさんのアオナツラインの長文感想

ユーザー
asteryukari
ゲーム
アオナツライン
ブランド
戯画
得点
84
参照数
5703

一言コメント

先の見えない不安や人との関わりの難しさに悩みながらも、前を向き、一歩一歩進んでいく。これはそんな彼らの軌跡の物語。

**ネタバレ注意**
ゲームをクリアした人むけのレビューです。

長文感想

「人生で一度きりの、甘く切ない夏休み計画」。そのすべてをしかと見せてもらった。初めてこの作品の概要を見た時から何も変わらない、それでいてこちらの求めていた以上のものを提供してくれる徹頭徹尾、青春物語だった。

青春をこれから始まる季節に合わせ「青夏」に文字る。単純だけどこれがなかなか素敵で、そう感じるのは知らぬ間にこの作品の空気に浸っていたからだろう。夏という季節、海岸近くの学校、男女のグループ、エトセトラエトセトラ…。青春の空気感を作り上げる全てが序盤から揃っており、私自身もそれに引き込まれていった。

これがこの作品を楽しめた一番の理由だと思っている。この空気に浸れぬまま読み進めていったら、恐らくは青臭さやら恥ずかしさというものを強く感じていたことだろう。

そしてただ雰囲気が良いだけではなく、純粋で不器用な物語の数々も勿論良かった。特に海希√なんかは涙を誘う場面が集中しており、まあ泣いた。たくさん泣いた。彼らのこれまでの積み重ね、心情を考えると泣かずにはいられなかったのだ。

以下√ごとの感想。


○結√
主人公達を見て驚愕生活に憧れ転入してきた箱入りのお嬢様とのことだったが、話を読み進めていくと実は三人の関係性に憧れたからではなく…。ここで、ああ、本当に箱入りなんだなということに気付く。

そんな彼女とのお試し付き合い。これには正直他の三人と同意見で、いや、もうお試しとか取っちゃえよと思ったりもしたが、まあ達観も恋愛面は箱入り娘と同じような感じだったので。

不安は付き合った後も付き纏う。この先関係を続けていく自信がなくなっていくのなんかは初めての経験らしい、悩んで当然のものだった。そんな悩みをかき消すのがきちんとパートナーであるところが良かった。誰かに助言をもらうのではなく、恋人と手を取り合って前に進んでいく、何とも素敵だ。

終盤は彼女の台詞の力強さが目立っていた。普段フワフワしているような彼女だからこそだ。そしてそれに呼応するように彼女と「これから」を約束する達観も良い。絡まった糸の強さを確かめるように熱い抱擁を交わす、ヒロインの名前と掛かっていて良い終わり方だった。


○ことね√
友人グループにハブられ、拾われた小娘。拾われた時はあんなに弱弱しかったのに、いざ接してみると棘だらけ。そりゃあ人間関係は上手くいかないよなぁというのが第一印象だった。

それでも段々と主人公達のグループに馴染んでいけたのは、達観の存在が大きいだろう。勿論、他の面子の存在も助けになっていたが、彼女の心を動かす機会が多かったのは彼なはずだ。

だから彼女が彼のことを好きになるのはとても自然で、ああ、そうなるよなぁという感覚だった。グループでも、二人の時でも自分の味方になって側でサポートしてくれる。こんなの好きにならないわけがない。

しかしながらこの√の見所は二人の恋愛模様ではなく、皆が一丸となって彼女を支え、彼女の夢を応援するところだろう。以前いたグループでは仲が険悪になってしまい、グループから押し出された彼女だったが、主人公たちのグループに入れてもらってからは皆から愛され、ここでは後押しされる。今回の「押し」が彼女にとってどれほど温かいものだったか、過去と見比べることでより一層、彼女の喜びを感じ取ることができる。

これから先、彼女がどうなっていくかわからないのは少し気になるところではあるが、あの歌のように何があっても最後は笑ってほしいんだ。


○海希√
他√では失恋していた彼女の番がやってきた。他√で達観から恋の相談を受ける彼女を見る度に胸が痛んだ。その時の台詞がどれも達観に助言しているようで、自分に言い聞かせ、諦めようとしているみたいで辛い。

そんな彼女もこの√でようやく幸せに…。それくらいの期待だったのにまさかここまでのモノを見せてくれるとは。感謝の気持ちでいっぱいだ。これは海希√であって、海希√ではない。海希と達観、そして千尋の三人の絆の物語だった。

まずは海希について、彼女は十年来の幼馴染であり、達観との距離について長年悩んできた。今でこそ仲良くしているが、恋愛絡みの話になると、過去のこともあり途端にぎこちなくなる。それをどう解消していくかということだったが、これがまあ上手かった。

ぶつかって、仲直りして、またぶつかって。仲間の助力もあり、ようやく辿りついた告白の場面では、彼女の笑顔が本当に嬉しそうで、ああ、よかった、よかったなあと歓喜の涙を流したほど。

そしてこれに大きく貢献したのが千尋くんなわけだが、彼が本当に良いキャラしていた。作中で好きなキャラはと聞かれたら、迷わず彼の名前を挙げることだろう。序盤からかっこよかったが、ここにきて内面のかっこよさまで見せてくれる。こんなの惚れるしかない。

理由もなく昔からの親友キャラというわけではないという点も良い。親友になるきっかけとなったエピソードが丁寧に語られていて、この子は本当に達観に恩を感じているのだと、だからこそ親友になりたいと思ったのだなというのがよく伝わってきた。

二人が自然に恋人同士になる、それこそが自分にとってこの上ない幸せであると、以前から思っていた。そして三人でいることの心地良さを感じながらこの夏、ついに動いたわけだ。自分が一人でやっていけることを見せつけ、二人を安心させる。そんな二人のための計画を密かに立てていたのだと。もう千尋の二人を想う気持ちが眩しすぎて眩しすぎて。

ただまあ、二人も負けていなかったのだ...。今まで自分達を引っ張ってきてくれた千尋に対し感謝を伝える。最後の三人の会話はとても切なくて、でも温かくて。もうボロボロ泣いた。三人で何気ない日常を過ごすこと、それこそが何より大切な日々だったのだ。

そうして今までを振り返りながらも、やはり彼らの答えは変わらないというのがまた…。
本当に大好きな話だった。




全√が終わった後の演出も乙なもので、綺麗に幕を閉じたと思う。またラストに流れる「Blue,Summertime Blue.」が読後にピッタリで、ついつい余韻に浸ってしまう。夏を思い出す作品としてまた一つ胸に刻まれた。良い作品だった。