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asteryukariさんの初めての彼女の長文感想

ユーザー
asteryukari
ゲーム
初めての彼女
ブランド
Waffle
得点
80
参照数
1750

一言コメント

大人に成長した、してしまったヒロインの生き様を描いた一作。凡作では終わらない、作品の色を最後まで主張し続けてくれた。

**ネタバレ注意**
ゲームをクリアした人むけのレビューです。

長文感想


「初恋の女の子で、初めての愛し合った女性は、風俗嬢だった」


友人の後押しもあり脱童貞の為に風俗に訪れた憲秋の相手は今もなお思い続けている初恋のその人、秋乃だったと。そんな運命的な出会いから物語はスタートするわけだが...。

本作は「青春NTRストーリー」であり、風俗嬢に恋をしてしまった主人公「高木憲秋」と、風俗嬢でありヒロイン「雪宮秋乃」との恋愛模様が描かれている。ルート構成は憲秋ルート、秋乃ルート、自暴自棄ルートの三つで、憲秋・秋乃ルートはそれぞれの視点で同じ物語を、自暴自棄ルートはまた別の物語が書かれている。

プレイしてみてまず感じたのは本作は所謂「寝取られゲー」ではないなと。いや、寝取られ要素はあるのだが、メインに描かれているのはそこではない。風俗嬢と付き合うとはどういうことなのか、風俗嬢になるとはどういう選択なのか、そこが本作の主張したいポイントであり、大きな魅力であったのだと私は思う。

また、上記により本作における"主人公"は憲秋であり、秋乃でもある。個人的には後半の内容が凄く好みだったこともあり、いっそ秋乃を主人公と言ってしまっても良い気がする。それほどまでに彼女の人生が色濃く書かれていた。

偏見なのだがプレイ前はブランド的にもライター的にもそんなに期待していなかった。ファーストインプレッションが良いだけの作品、もっと言えば過大評価されている作品だと思っていたのだ。しかしまあ、やってみないとわからないもので、本作をプレイした愚かだった自分を戒めている。それほどまでにしっかりと面白かった。

以下ルートごとに感想を述べていく。


●憲秋ルート
初恋の人であり、風俗嬢である秋乃と付き合う事になり、彼女に貢ぎつつもお金以上の幸せを享受する憲秋くん。恋は盲目なのか、本当に周りが何を言っても貢ぎ続けるから凄い。このルートを読んでいてまず気になったのは秋乃の反応である。憲秋にとっては初恋の人だったかもしれないが、彼女はそうではないはずである。ではなぜ、彼と付き合う事にしたのか。

といった具合で、はじめから彼女の気持ちを疑って読んでいたのだが、読み進めてみるとちゃんと彼女も憲秋の事を好きだというのが伝わってくる。中盤辺りに差し掛かると、普通に純愛物のノベルを読んでいる気持ちになってつい油断してしまった。中盤の時点で既に種は撒かれていたのだ。

いきなり寝取られている光景を見せるのではなく、メールや財布などを通して徐々に徐々に秋乃と憲秋の日常が侵食されていく感じが凄く良かったなぁと。あのイメチェンなんかも中々強烈で、「寝取られた事実」よりも、「変わってしまった事実」を突きつける感じがたまらない。清楚な彼女が印象的だったのもあり、読み手である私までも少しダメージを受けたほど。

また、周りの存在も魅力的に書かれていて、特に親友である聡には何度も心を揺さぶられた。風俗嬢に入れ込む憲秋を止めるのではなく、後押しようという発想が出るのは親友ならではだなぁと。憲秋失踪後も、彼の消息をつかむべく走り回っている姿が本当に優しくて、熱くて...このルートで一番精神にきた。


●秋乃ルート
このルートでは憲秋ルートを今度は秋乃視点で追っていく事になる。そのため、流れと終着点時点は同じなのだが、それでも読む手が止まる、あるいは読み飛ばそうとすることはなかった。その理由は秋乃の心情が驚くほど丁寧に書かれているからだ。どういった事実があって寝取られたのかだけでなく、彼女がそれまでどんな思いで、何を考えながら生きていたのかが丁寧に書かれていた。

印象的なのは「たかが千円くらい」という台詞。風俗嬢を始める前はその台詞に嫌悪感を抱いたはずなのに、いつの間にか自分がその台詞を思い浮かべる側になっている。その変化がとても切なかった。他にもダイヤのくだりや、憲秋との会話など至る所で彼女が変わってしまったことがわかる描写が用意されていて、すごいなぁと思わず感心してしまった。本当に彼女の内面が繊細に描かれている。

また、変わってしまった後に改めて主人公と抱き合うシーンでは、憲秋ルートだけでは読み取れなかった彼女の心の瓦解が書かれている。あの涙は後悔の涙なんてものじゃない、死んでしまった自分を見て流した涙だったわけだ。あの過去の自分と対峙させる演出は、作中でも特に印象深い。


●自暴自棄ルート
そのルート名からも想像できる通り、秋乃が前の二つのルートとは違う道を歩む話であり、憲秋の選択ミスが彼女の人生に大きな影響を与える。どのルートでも読み手を苛立たせる憲秋くんだが、このルートは特に酷い。しかし、そんな彼のおかげで見事に道を踏み外した彼女の物語は、これまでで一番面白かった。

このルートで特に素晴らしかったのは緩急の付け方。お金に目が眩み、そのまま堕ちていくかと思いきや、そんな彼女を救おうと憲秋を含む周りの人間が一斉に動き出した。それを見た時は、「ああ、やっぱり最終ルートくらいハッピーで終わるんだな」なんて考えながら読んでいたが...彼女はそれを自ら否定した。彼らと自身の立ち位置を理解し、現実に耐えられなくなったのだ。そして、再度彼女は堕ちていく...。どうしようもないくらい徹底したバッドエンドだった。

特に「IFなんてない」という台詞は強く頭に残っている。「IFだから救われるのだろう」と考えていた自分にあまりにも刺さり過ぎる台詞だったのだ。"自暴自棄"とあるけれど、悩んで苦しんで泣きまくった末に辿り着いたのが自暴自棄。その悲しすぎる結末に嬉しくて、嬉しくて仕方がなかった。




振り返ると本当に「ナメていた」としか思えないほどに私好みの物語が用意されていた。
出逢いに感謝。