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asteryukariさんの最悪なる災厄人間に捧ぐの長文感想

ユーザー
asteryukari
ゲーム
最悪なる災厄人間に捧ぐ
ブランド
KEMCO
得点
82
参照数
191

一言コメント

どこまでも純粋且つ真っ直ぐな彼女の願いに感謝。

**ネタバレ注意**
ゲームをクリアした人むけのレビューです。

長文感想

「災厄人間」なんてタイトルをしているからどれだけ悲惨な出来事が待ち受けているのだろうと少し身構えながら臨んだが、少し読んだ限りだとかなり平和。主人公の他人を視認できないという設定自体は辛そうだが、実際には透明人間の少女たちと上手くやっている様子で、そこに災厄なんてワードは一つも転がっていなかった。

ただまあ、そんな甘い夢物語で終わるわけもなく、しばらく読み進めると本作のメインとも言っていい滅びゆく世界、つまりは災厄が始まる。単純に眺める分にはクロは死んでしまい、主人公は絶望するの繰り返しなのだが、同じに見えるクロの一人一人に意志があるので世界を跨ぐたびに想いが蓄積していく。



豆腐が大好きなクロ、「ふー」の死をきっかけに自分たちがどういった状況に置かれているか、何をしなければならないかを理解する。良かったのが次のクロであるキナの対応で、ふーの死を重く受け止めつつ、二人が普通の人間に戻れる方法を模索していこうと、前向きな回答を出していた。振り返ってみると五人の中で最もしっかり者である彼女を二番目に置いたのは上手かったなと思う。

で、しっかり者のキナとの別れも来るわけだが…これまたとても苦しい。何が苦しいって、自身が死ぬのではなく「主人公がひとりぼっち」になってしまうのを恐れている点だ。だからこそ、「ごめんなさい」なのだろう。「ありがとう」とも口にしていたけれど、彼女の本心を知っているからこそ前の言葉がいつまでも頭に残り続けた。

次のクロはみそが大好きなみーになるわけだが、この子はかなり良かった。良かったというのは私の好みに合致していたという意味であり、強く逞しく、それから優しい心を持った彼女に惹かれた。主人公の事を想っているのはどのクロも同じだが、母親の事まで想ってしまっているのは彼女だけだろう。五人のクロの中だと紛れもなく一番好きだった。

だがそうやってヒロインに想いを寄せているとその分、別れの瞬間も辛くなるわけでその後もなつ、にゅーと別のクロと思い出を紡ぐたびに胸が抉られていくような話作りになっていた。私はみーが最大値だったのでまだ平気だったが、全クロを愛していたプレイヤーなんかはどんな心境になるのだろうか。考えただけで気分が沈む。

しかしながら、そんな絶望だけを用意した作品などではなく、クロを犠牲にすることで世界の仕組みもわかってくる。ただ、わからないことも多いまま何となく奇跡が起きたみたいにTrue Endは終わってしまうのでTrue Endを迎えた時点での本作の評価はあまり高くなかった。クロが食べているソフトクリームにきちんと五種の味が混ざっているのが嬉しかったくらいだろうか。



そんな私の不満を見事に払拭してくれたのがTrue Endクリア後に解禁される追加エピソード「最悪に捧ぐ」だ。災厄世界のきっかけを作った人物「自殺した豹馬」視点で語られていく物語であり、いわば本編の裏側となる。

本編では単なる妬みと恨みから豹馬を苦しめていたように感じたが、その裏には「償いの試練」と呼ばれるものがあり、それを完遂するためでもあったことが語られる。そして、本編では負の感情、罪悪感等々を持つと起きると思われていた災厄は、実は豹馬と自殺した豹馬(幽霊)の同調率が高まることで起きるものだと判明する。この事実はかなり大きくて終盤の展開で上手く利用してくる。

まあ幽霊の視点という事で中盤辺りまでは本編と同様に次々と豹馬を苦しめる光景が映し出されるわけだが、大きく違う点はリーダーの印象だろう。本編ではいつでも助けてくれる天使のような彼女だったが、ここで本当の彼女が見られる。ヒロイン紹介の秘密に書いてあった「豹馬の想像以上に豹馬が好き」という文を見た時から予感はしていたが、想像を越えていた。

このリーダーちゃんつまりは自殺したクロが本当に素敵なキャラクターで、物語も「豹馬君」を一番に考える彼女を上手く扱っていたなと思う。本当は豹馬の足手まといになっているクロなんか助けたくもないけれど、それをすることで豹馬が喜んでくる。ならばやるしかないと、本編を思い返すとなるほどなと思う場面がいくつもあった。

また、終盤にてなぜ再び災厄が起きてしまったのか、そしてなぜクロは人間に戻れたのかが描かれているわけだが、前者の理由については素直に驚いた。同調するのは負の感情だけではないと、まさに虚を突かれた気分だ。こういう捻りはとても嬉しい。

そして本編の補完も終わり、幽霊くんの試練も失敗に終わるわけだが...最後までリーダーちゃんが持っていったなと。自分の大切な「豹馬君」は殺されてしまったし、自らの私欲の為にその後も次々と豹馬君を殺し続けた。そんな弱くて駄目な人間にすら彼女は手を差し伸べたのだ。なぜなら彼もまた一人の豹馬君なのだから。

「すべての世界の豹馬君の傍にいたい」、言葉通りと言えば言葉通りなのだが、それを最後の最後に持ってくるだなんてそんなの...。彼の目線に立って考えても、一プレイヤーとしても嬉しすぎる幕引きだった。このラストがあるだけで作品としての価値も随分上がったと思う。



とまあ、こんな感じでやはり追加エピソードが素晴らしかったなと。実質これがTrueなわけだが、「最悪に捧ぐ」というタイトル名もかなり気に入っているのでこれで良かったと思う。素敵な作品だった。

ありがとう、クロ。