タイトルの意味を理解した時に自然と涙が零れた。
二人の親が再婚したことで幼馴染であり、義理の姉弟でもある関係になってしまった菜穂と主人公。これだけでも恋愛ADVとして成立しそうではあるが、それに加えて彼女は不治の病を患っているという設定まで付いている。本作には五人の攻略可能ヒロインが存在するが、導入の時点でメインヒロインは誰かを理解した。
こんな設定なので序盤は暗めの作品なのかなと思う瞬間もあったがそんなことはなかった。家族である結莉と慎有は勿論の事、楓子や晶といったちょっと特殊な人間たちとも関りを持ちつつ、比較的明るい雰囲気を保ちながら物語は進行していく。特に晶と主人公の会話は始めの設定達を忘れるように能天気なものばかりで、読んでいて面白いと感じる場面もいくつかあった。恐らく晶みたいなキャラクターを使うのが上手なライターさんなのだろうと思う。
明るい雰囲気を保ちながら時たま結莉の発作が起きたりして、主人公もその度に沈むあるいは自暴自棄になる。その辺のバランスが丁度良かったなぁと。中盤辺りは家族の温かみを感じる描写なんかも多数揃っていて、純粋に素敵だなと感じる場面もあったり。ユキが良いキャラしていたなと思う。彼女の存在が主人公たちの家族の絆を一層強めていた。
で、そんな風に良いお話で終わるはずもなく、菜穂√では容赦のない展開へと突入していく。私の場合は菜穂を最後に攻略したのだが、本当にそうしてよかった。そう感じた理由は他√は担当ヒロインとの恋愛を描くと同時に、菜穂√を意識した作りになっているからだ。補完とまではいかないが繋がりは確かに存在する。メインヒロインは菜穂だと言わんばかりの作りがとても効いた。
菜穂√は一言でいえばすごく私好みのシナリオだった。主人公はおろかこれまで自分を支えてくれた人たちの事を忘れていく菜穂。約束できないとはそういう意味だったのかと彼女の心境を察すると同時に涙が溢れた。忘れちゃうから、約束を破りたくないから…そう静かに零す彼女を見て胸が締め付けられた。
オチもその辺の冷めるような作品とは違い、しっかりと余韻を残してくれる。悲しいし、辛いけれど彼女の心はそうではないだろう。彼女と共に、希望を持ちながら前に進んでいこうと決めた主人公には拍手喝采である。全体を通して好感度の低めな主人公であったが、最後はきっちり決めてくれた。また、主人公の親友ポジションである誠志もすごく良いキャラしていて、もっと登場の機会を増やしてほしかったと思うばかり。
システム面は残念だが、代わりに素敵なサウンドと私好みのシナリオが用意されている。総じて満足度の高い作品であった。主人公が彼女の事を想うように私も、この作品の事はずっと覚えていたい...。