比良坂初音というキャラクターに出会えた事を誇りに思う。
主人公が黒髪ロングセーラー服の女郎蜘蛛ってなんともまあそそる設定である。本作は1997年に発売された作品なだけあってシステム面なんかかなり軽めに作られている。ただ、お話については今でも十分面白いと感じるような、ドロドロとしたけれど美しい物語が用意されていた。流石は有名な作品といったところか。
本作の何が魅力に感じたってそれはもう比良坂初音様が存在していることその全て。全てのお話が彼女を魅せるための演出であったとすら今は思う。それほどまでに彼女は逞しく、美しかった。
物語が始まってすぐに不良共を一掃する。その恐ろしくも綺麗な光景を目にして奏子同様すぐに心を奪われた。作中を通して一番同調する場面が多かったキャラクターは奏子で間違いないだろう。“ああ、私も姉様と呼びたい”と、そんなことを思いながら読んでいた。
そんな姉様の魅力は止まることを知らず、終盤まで気に入った人間を次々と手籠めし、傍に置いている奏子には愛を注ぎと、読めば読むほど嬉しくなっていくような内容になっていた。力だけは強そうな体育教師ですらも「豚」と言い放ち一捻り。高揚感が抑えきれなくなっていくあの状態、偏に幸せだった。
序盤から中盤にかけては姉様と銀の秘密にはあまり触れず、姉様無双を見せ続けられる。強い姉様、美しい姉様、それから妖艶な姉様。比良坂初音という女性がどういった人物(怪物)なのか、それをしかと目に焼き付ける時間になっていた。
終盤になると初音の過去及び、銀との因縁について詳しく語られ始めて、各々の心情なんかも見えてくる。私はやはり姉様に心酔しているので…端的に言って姉様が可哀想だなと。気まぐれで眷属にして、気まぐれで殺そうとした。そんな奴に気持ちが一ミリも向くはずがないわけで、姉様が銀への憎しみを込めるたびに私も黒い感情に囚われた。彼女が奏子に「姉様」と呼ばせていた理由に気付いた時なんかはくるものがあった。
ただ、いくら我らが姉様とはいえ相手は自身を眷属にした者。いわば主人とペットの関係にあるわけで、実力差は歴然。そして、とうとう追い詰められたと思った時に彼女がとった行動というのがまた美しかった。愛する者を守りたい気持ちと、冷静な状況判断。その二つが組み合わさったあの一撃は「美しい」と言う他ない。
また、音楽面についてもかなり評価していて、プレイ中に手を止めて聞き入ってしまう事もしばしば。場面に合っていて、尚且つ曲の一つ一つのクオリティが高い。これも作品の大きな魅力の一つだ。
本筋に入ってからの話が好みだったのもあり、もう少し細かく語ってくれても良かったのではとも思うが、まあ十分に堪能できたなと。決してハッピーエンドではないけれど、彼女の生き様は胸に深く刻まれた。あの時代にこんなキャラクターとは、これからも旧作漁りはやめられそうにない。