生きていく上で日々感じる不安や苦悩を章ごとに登場する人物たちと一緒に考えていく作品。また、そういった楽しみ方とは別に物語としての面白さも十分以上に備わっていて、本当に素敵な作品でした。
この作品をやり終えてまず初めに思ったのはきちんと製品版を買ってプレイしたかったなということですね。プレイしようと思った理由の一つとして「無料だから」という考えが自分の中に少なからずありました。今となってはその時そんな考えを抱いた自分を叱りつけてやりたい気分です。製品版を手中に収めたかったですし、何より少しでも作者さんに感謝の意を示したかったです。
まあ私情はさておき、本当に面白かったです。どの話もキャラをカウンセリングしているようでプレイヤーである私自身がカウンセリングされているような、共感と勉強の連続でした。学生さんから社会人までの非常に身近な悩みが題材として多く使われており、"刺さる"という言葉を使うならば、それは万人に言えることなのかもしれません。
こういった面白さに加え、物語としての面白さもあり、展開自体も良かったですが、それ以上に人と人との繋がり、生きることの難しさについて描かれていたのが素晴らしかった。正直、ここまで好きなテーマを詰め込まれたら高評価せざるを得ないです。
演出に関しては始めこそBGMが流れない、ほぼ無音の状態で進行していき、ノベルゲームにはBGMがあることが日常となっている私としては、始めこそやや不満に思いながらプレイしていましたが、ここぞという場面でしっかりと合った曲を流してくれるので、その都度、鳥肌を立てていました。CGの差し込みも同様で、終盤なんかは演出に半分泣かされていたようなものです。
章ごとに軽く感想を述べていきます。
一章では教育実習生のお話ということで、これは単純に話が面白かったですね。もちろん初めてのカウンセリングということでカウンセリングに伴って心理学的な要素なども堪能することが出来て面白かったのもありますが、今だからわかるが子供の頃はわからなかったことやそれを説明する難しさなど、姫紗希に共感出来る部分が多く、この作品に引き込むには自分にとってベストな第一話だったのではないかと思います。
自分が小学生頃も、多くの教育実習生を目にしましたが、姫紗希と同様に授業を苦痛に感じてそうな人も中にはいました。でも、そんな人たちも最後の日には決まってみんな泣いていて、その時はなぜこんなにも皆泣けるんだろうと思っていました。この章をやり終えてというわけではありませんが、今ならその気持ちがわかるような気がしましたね、姫紗希というキャラクター越しにこちらもうるっとさせられました。
二章はこれまた皆悩むであろう就職、将来やりたいことについて。このお話の良いところは、どこどこに就職するということがゴールとして描かれているのではなく、龍輔がカウンセリングを通じて今までの過去、行動を振り返り、自分自身で些細ではあるが大切なことに気付き前向きな気持ちになって終わるというところかなと。変にいきなり悩みが吹っ切れるというのがないのが逆に良かったです。
テーマがテーマなだけにそう簡単に解決するものでもありません。これからも悩み続けるだろうけれど、気持ちだけでも前向きにして、徐々にやっていこうというお話がとても私好みでした。
三章は海くんが中々子供というか自分勝手という感じで、最初こそまるで共感出来なかったのですが、それが「一緒にやりたい」という一心の思いから来ているものだと気付くと、共感はできませんでしたがだんだんと理解していくことができました。後半では持ち前の粘り強さとカウンセリングの影響もあり、良い展開に運ぶことが出来ていましたしね。
尋も最初は印象が悪かったですが、海くんを想ってのことだったと思うとガラッと良い奴に変わりました。良い奴だけどやり方が悪かっただけなんだと。また、この章は度々幼少期の回想を入れてくるのが非常に良かったです、二人のこれまでの関係、出来事がわかり海が二人に拘る理由も理解できました。
そして四章、涙の連続でした。まこちゃんの過去を見ていても辛かったですし、兄の懺悔の気持ちもわかります、そして最後の流れがズルい。この話はきっかけこそ海くんの行動でしたが(正直どうかとも思いましたが)、基本的にはまこちゃんのお話であり、変に海くんが話に介入しすぎないところが素晴らしい。
また、まこちゃんの正体がわかった時こそ若干の冷めがありましたが、それに加えて、どこでカウンセリング技術を身につけたのか、どうやってしていたのかなどの疑問が解消されていき、最終的には納得のいく展開だったように感じました。
物語の途中でまこちゃんが言っていた「自分を責めていた」というのは私自身も共感できる節があり、かといって自分を甘やかすようでは駄目で、絶妙なバランスの中で私たちは生きているのだなと感じたりしていましたね。また、お兄さんが言っていた「正しさ」についてはかなり考えさせられました。
自分の思う"正しい"が崩れたら何が残るというのか、それが今も響き続けているというのが心に残りましたね。平気そうに見えてずっと後悔を背負ったまま生きていたんだと、その後、グチャグチャになっていく姿を見るのがたまらなく辛かったです。本当に良いお兄さんでしたよ。
最後まで感動を冷ますことなく綺麗に締めてくれました。この作品に出会えたことを誇りに思います。ありがとう。