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asteryukariさんの縁りて此の葉は紅にの長文感想

ユーザー
asteryukari
ゲーム
縁りて此の葉は紅に
ブランド
Lump of Sugar
得点
78
参照数
367

一言コメント

独特な世界観だけでは終わらない、素敵な女の子たちの揃った作品。一途に想う事の美しさ、苦しさを存分に堪能することが出来た。

**ネタバレ注意**
ゲームをクリアした人むけのレビューです。

長文感想

獣耳や角、翼などを持つ「幻夷」と呼ばれる種族と人間との共栄を描いた物語。特徴的なのは物語開始直後から既に両者の間に壁がない点だろうか、当たり前のように生活に溶け込んでいる彼女たちを見て安心した。作中でヒロインが神通力を使用した際も非難するのではなく物珍しい目で見るだけ。その平和な世界観がまず良いなと感じた。

そしてその平和を支えているのが木乃葉やほおずきといった調整役の面々なのだと、ちゃんとそういう設定を用意してきたのがなかなか凝っているなと。秋を舞台にした癒しゲーくらいのイメージで始めた私としてはその丁寧な作りに驚かされた。継花実町になぜ二人しか調整役がいないのか、二人でいいのか。物語を読み進めていくとその理由もよく分かる。

また、継花実町は幻夷発祥の地とのことで、それにちなんだ伝承が登場人物の正体へと繋がっていくなどお話として面白くなっていく要素も豊富に含んでいた。実際に出来はそこそこ良かったと思う。ただ、本作の最大の魅力はやはりキャラクターにあるのかなと。ヒロイン四人中三人が幻夷というのも嬉しい。

まあヒロインは見た目でいえばどのキャラも可愛い子ばかりで、読み始めの頃は目移りすることもしばしばあった。共通√にて各キャラクターにスポットライトが当たるたびに「いやー、やっぱりこの子かなぁ」なんて考えながら彼女たちを眺めていたのだ。各々について軽く話の感想も交えながら語っていく。

〇和羽
クールで美しい和服メイド。第一印象でいえば彼女がダントツだった。しっかりしていると思いきや家事が壊滅的にできなかったり、クールに構えているけれど実はぬいぐるみ集めが趣味だったり。意外にも面倒見がよく、もみじを世話してあげていたのもポイントが高い。

話を進めていくと彼女が感情を表に出さない理由がわかり、√もそれに沿ったややシリアスな方向に進んでいく…わけではなく男性を意識するようになった非常に乙女な彼女が見られる。

共通の時点で彼女の心は掴んでいたので、それを上手く個別√で昇華させたなと思う。お話としての面白さよりも彼女をかわいく描くことに注力している、こういうのでいいのだ。

〇小乃葉
作中一番の年下ではなく、一番の年上。なんと200歳という事でみんなの母親として、はたまた一族の長として活躍していた。まあこのヒロインを一言で例えるなら「母性の塊」になるかと。主人公が甘えたくなるのもよく分かる。

個別√に入るとまとめ役としての彼女ではなく、彼女としての彼女が見られる。役割から解放され無邪気にはしゃぐ小乃葉ちゃんがかわいいのなんの。かと思ったら妖艶なオーラもしっかりと纏っているし、隙がなかった。

終盤は「長寿」であることをテーマにしたちょっぴり切ないお話が用意されていたが、個人的にはあまり興味が向かなかった。彼女の気持ちはわかるが、話の膨らませ方がそれかと感じてしまったのだ。

〇すずな
ヒロインの中で唯一の人間。はじめは魅力的な幻夷たちがいる中でキャラが薄くなってしまうのではとか考えていたのだが、心配無用。むしろヒロインとしては一番ストレートで可愛らしい女の子だったと思う。お兄ちゃんが大好きな妹、単純な掛け算なのに破壊力を凄まじかった。

序盤から猛烈なアタックをかまし、自身が異性として兄を好きであると自覚もしている。こんなのもう止まらないだろう。よく共通で主人公が折れなかったなと感心すらした。そして、そんな彼女を目で追っていくうちに好きになっていた。

話も彼女の「兄を想う気持ち」を認識しているからこそ染み入る場面があったりして、やっぱり妹キャラは強いなぁと改めて実感した。まとめ方こそあっさりとしていたが、落とし所としては悪くはなかったと思う。

〇もみじ
主人公の前に現れるや否や「ご主人、ご主人」とじゃれてくる不思議ちゃん。この時点でまあまあ好感度が高かったのだが、その後本当に主人公に拾われていた事実が特大のプラスになった。

優しくてお世話してくれて、命を救ってくれたご主人が好きで、だから恩返しがしたかった。いっぱい、いっぱい恩返しがしたいと願った姿がこれなのだと。二人が結ばれる前夜の会話は彼女の心情がこれでもかと溢れていて、別に泣くようなシーンではないのにうるっと来てしまった。

話が後半に行くにつれて立場的な問題へと発展していき、最終的には雲行きが怪しくなっていく。けれどしっかりと主人公が主人公らしい振る舞いをしてくれるので、すっきりとした気持ちで終わりを迎えることが出来る。土地に縛られると言われていたが、彼ら二人にとっては本望だろう。末永く幸せに暮らしてほしい。



といった感じで雰囲気ゲーでは終わらない良い作品に仕上がっていた。何より今はもみじちゃんと出逢えた事がとても嬉しい。