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asteryukariさんのカガミハラ/ジャスティス -子供と大人と◯◯の話- 決定版の長文感想

ユーザー
asteryukari
ゲーム
カガミハラ/ジャスティス -子供と大人と◯◯の話- 決定版
ブランド
フラガリア
得点
84
参照数
57

一言コメント

盛り上がってほしいとは思っていたが、こちらの期待以上の喜びと楽しさを与えてくれた。視点の切り替えが本当にお見事の一言。

**ネタバレ注意**
ゲームをクリアした人むけのレビューです。

長文感想

前作からの続きであり全体で言うところの二部についての感想になる。学校内でのヒーロー事件は無事解決し、第三の敵との戦いに向けたお話が用意されていくわけだが…それがまあ驚くほどに充実していた。一部は二つだったエピソードが今回はなんと倍の四つに。しかもボリュームだけでなく、しっかりと面白いものを提供してくれるという…。本シリーズの評価が大きく変わるくらいには大好きな作品に仕上がっていた。

正直、前作は面白い点こそあるが、どこか物足りなさを感じていた。だから本作でそんな隙間を埋めてくれたらいいな程度の、もっと言えば中間作らしい盛り上がりを見せてくれればそれでいいと思っていたのだが、この二部は更にその上をいってしまった。続きモノでありながら、土台で終わることなく、圧倒的な面白さを提供してくれたこの作品には感謝しかない。

以下、それぞれのお話について感想を述べていく。



○常葉編
前作ではジャスティスブルーとして様々な局面で遥たちを助けてくれた常葉さん。見た目おっとり系だけれど、やる時はやってくれる。そんなかっこいい彼女がこのお話では恋に悩むという事で、振り返ってみても他とは少し毛色が違っていたなと。ただ、そんな話だったからこそ『彼女』の事を好きになれたわけだ。

『彼女』とは…そう、旭の事である。前作ではその立場からあまり好意的に見ることはなかったのだが、今回で一気に心を掴まれてしまった。木ノ下が自分から離れることになって初めて自分の気持ちに気付いた彼女。やがて始まる葛藤の時間。自問自答してから自分の答えを出し、悩みながら苦しみながらストレートにその気持ちを木ノ下に伝える。もう、この子で良いだろうと言いたくなるほどに、私好みのキャラクターに成長してくれた。常葉が敵わないと思うのもよくわかる。

負けを悟った後の行動も素晴らしく、木ノ下が幸せになれるように、そして幼馴染の常葉も幸せになれるように立ち待ってくれる。特に常葉が組織から追われる事になった際にジャスティスブルーとして彼女を守る旭さんには痺れた。こんなに素敵なキャラクターがこの作品にいたのかと、軽く放心状態にすらなった。といった感じで私にとっては常葉編というより、もはや旭編であったがこのお話を読むことができて本当に良かったと思う。



○あかね編
高校生としてはメンバーの中でもかなり若いあかねちゃんが主人公の物語。彼女が入学してから学生運動が盛んになるまで、つまりは前作の一年前の出来事に焦点を当てた内容となっている。この話を読んでいてまず感じたのはその温かさであり、小さかった頃の学友会だからこその皆で協力する楽しさが存分に描かれていた。

ただ、当然そんな明るく楽しい学園生活だけが描かれているだけでなく、前作のヒーロー事件の背景にあった周大翔の死についても触れることになるわけで、後半は中々にきつい展開が待ち受けている。「誰があの子を、活動に引き込んだの?」と、問い詰める母親に対して何も言えなくなるあかねたちを見て、心が痛んだ。序盤の明るい光景を見ていたから尚更である。

そして、終盤にて彼の復讐を果たすべく椿が動き出すわけだが…ここからが本当に面白い。復讐が面白いというよりは、そこに至るまでの過程が面白いと言った方が良いかもしれない。犯人の痕跡を辿ってずぶずぶと闇に踏み込んでいく様は読み応えがあり、見えそうで見えない第三者の存在を追っていく二人に魅了された。綺麗に見えて恐ろしいあの結末も含めて大変好みだ。



○乃亜編
あかね編で一連の事件の犯人であることがわかったシロサキこと『三月十四日 日向』の過去が語られる物語であり、あかね編を椿編とするのであれば、シロサキ編にあたる話が書かれている。あかね編ではまあ憎たらしい印象しかないようなシロサキだったが、過去が語られると見方もガラッと変わった。

彼女の師であり、憧れでもあった矢口先生は初登場ながらも一瞬で読み手の心を掴むような人間であり、そりゃあシロサキも憧れるよなぁと。二人の関係を見て自然と微笑んでしまう自分がいた。だからこそ、彼女が殺されてしまう場面は胸が苦しくなったし、シロサキの悲痛な叫びがダイレクトに脳に響いてきた。そんな理不尽な理由でどうして…と、ただただ悲しかった。

なので彼女の八つ当たりにも等しい行為も理解できたし、そんな彼女の思想に相反する学友会の存在を見て考えさせられた。これまでは学友会側の視点でしか物語を見ていなかったが、逆視点になるとこうも感じ方が変わるのかと、見事に私の気持ちを誘導してくれた本作の凄さに舌を巻いた。この乃亜編でヒーロー事件及び周大翔の事件は片が付くので、そういった意味でもこのお話は読んでいて気持ちが良かった。ここで二部が完結していたら、評価はまた変わったかもしれない。



○遥編
長らくお待たせしましたと言わんばかり遥尽くしのお話となっており、ディアナの目的も判明する回である。まずはずっと気になっていた遥の過去について触れてくれてホッとした。そして、その過去を知ると自然と彼女のやろうとしてる、首を突っ込もうとしていることへの理解も深まっていく。この辺の話の組み方は流石の一言。

そして同時にあかね編で謎の有能っぷりを見せてくれた村上の正体についても触れられるわけだが、これがそこそこ衝撃的で、これまでのお話で警察に追われていた理由も判明する。乃亜編で一区切りついたと思ったけれど、まだまだ面白くなってくるなと本作の底の見えない実力に感嘆すらした。

結末こそ次に繋ぐための、言ってしまえば消化不良に感じるものだったが、タイトル画面が変わる意味がわかると納得するしかなかった。四人が託したものを次は誰が引き継ぐのか、そんな『彼』に決まっているわけだ。







総じて面白かったと褒めちぎりたくなるような内容だった。まさかここまで引き込まれるとは思ってもいなかったので、二部の時点でもうちょっとした満足感がある。ボリュームがあるのに時間を感じさせない、そんな作品に出会うのは久々だった。