物珍しい題材を扱うだけに止まらず、用意された物語もしっかりと面白味がある。彼視点ではなく、彼女視点なのが作品の質を大きく上げたかなと。
自身のクローンを作ることが認められているという中々に攻め攻めな世界が舞台になっており、そこで家族も兄妹もいない所謂、天涯孤独の非モテ童貞主人公が寂しさを紛らわせるべく自身の嫁を作るという導入。
性転換して親友と恋仲に落ちたり、クラスメイトの女子と親睦を深めていったりといった作品は珍しくないが、性転換してもう一人の自分と恋人のような関係になっていくというのは初めてである。しかも自分の好みや気持ちの良い所を知っているから、それはもう…まさにイケナイ関係になる。
また、凄く凝っているなと感じたのは初めからもう一人の自分好き好き状態に突入するのではなく、しっかりと自分に嫌悪感を抱いてくれる点。主人公は元々非モテのデブなのだ。そしてコンプレックスを感じているからこそ、アキラもまた同様にアキトのことを醜いと感じる。こう書いてしまうとアキトが可哀想で仕方ないが、己が欲望のために生み出されたアキラこそが最も可哀想である。
で、そんな二人が徐々に他人から兄妹のような関係になっていくのが本作における一つの見所である。そして最終的にアキラとアキトが一緒になる未来も...。それはそれでいい、けれども私が最も好んだのは先輩エンドであり、言わば二人が別離する未来だった。
先輩こと宗一郎は序盤からやけにアキラに優しい眼差しを向けていて、「ははん、さてはこいつ寝取り竿役だな」と邪推していたのだが…本当に優しくて良い人だったから驚きだ。彼はアキラにだけ優しいのではなく、アキトにも優しかった。だからこそアキラも自然と彼に心惹かれていく…軽く振り返ってもよく出来た運びだったと思う。
やがて恋人のような関係になっても決して野獣になるわけではなく、常にアキラの事を考えて手を出そうとしない。抱きしめて、誰がどう見てもホテルにもってけるタイミング。恐らくアキラまでもがそう感じただろうに、それでも彼女の家へ送り届けるだけ。あまりにも優しすぎて警戒すらしたが、しっかりと納得できるバックボーンがあった。
「君が彼だとしても、僕はいまの君が大好きなんだ…それだけはわかってほしい」
クローンだと打ち明けてもこれまでと変わらない。それどころか、受け入れた上で愛を囁く。こんな優良物件男が余っていいのかと、私までもが彼の虜になりつつあった。
「ありがとう!私、幸せになりますっ!」
全てを受け入れてもらい、本当の意味で通じ合った二人。クローンではなく、アキラとしての存在意義を獲得した彼女の台詞はとても生き生きとしていて、表情は今までで最も幸せそうだった。