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asteryukariさんの残念な姉との幸福論の長文感想

ユーザー
asteryukari
ゲーム
残念な姉との幸福論
ブランド
りびどーそふと
得点
85
参照数
1829

一言コメント

弟さえいればいい

**ネタバレ注意**
ゲームをクリアした人むけのレビューです。

長文感想

プレイ前は単なるお姉ちゃんゲ―として捉えていて、二人の姉が弟を取り合うようなお話だと思っていたのですが、プレイしてみるとそれは全然違い、むしろ姉同士の仲は良好でした。また、姉達以外にも魅力的なキャラばかりで、いい加減に見えて影で家族を守ってきた父親や、そんな父親の友であり八重樫家の一員と言っていいほど親しい関係にあるアニキ、物語で大きな活躍を見せることはないがいつでも主人公の良き理解者であり、寧々√では主人公と寧々の行き過ぎた関係について批判せずにただ忠告してくれる幼馴染がいたりと、一概に姉ゲーとは言えませんでした。また、それはシナリオにも言えることで、きっかけこそ姉ですが最終的に家族全体で考えた時の話に繋がる。それでいてその結末は二つの√で全く異なっている。これが最も印象的でした。
以下ルートごとの感想になります。

●鈴音√
学園では完璧な女性教師であるのに、家ではぐーたらのどうしようもない干物姉。そんな彼女の願いは、彼女の大切にしている家庭を守ることであり、それ故にこの√では始めこそ教師と生徒という立場での問題についてのお話でしたが、後半は家族全体のお話が展開されていました。どちらの話でも父親の良さが光っており、これまで謎だった母親との離婚についての真相などを見ても、父親がどれだけ家族を大事にしてきたがわかりました。そうして父親の頑張りを理解し、八重樫家全員で家の取り壊しを阻止しに行くのには家族の温かさを感じました。ただ、祖父の改心はあっさり過ぎてポカーンとしてしまいましたが。この√は最後でも"家族"という言葉で締めくくられているように、「家族を守る」というのが主題でした。

●寧々√
弟のことが大好きでたまらない姉であり、生徒会長でもある彼女は自分の考えをどこまでも貫こうとしており、故に暴走してしまうこともある危険なお姉ちゃんでした。この√は姉も身勝手な子供の様ですが、主人公も優柔不断な子供みたいなんですよね。父親に反対された時の「学園のみんなは認めてくれた」という言い分とか。鈴音√で父親がどれだけ苦労して子供たちを育ててきたかを理解していたので、父親の意見には同意しかなかったです。また、これ以上家族がバラバラになるの恐れる鈴音の気持ちも痛いほど伝わってきました。そんな周りの反対に押し切られると思いきや、寧々はそれならと言わんばかりに家に放火。しかもみんなの部屋の鍵を締めた上での行い。驚愕の一言ですよ、弟のためなら今まで仲良く暮らしてきた家族ですら殺す。父親も言ってましたが頭のネジが吹っ飛んでます。でも寧々はそれくらい弟のことを愛していたんですよね、それも優先順位というよりは弟さえいればよかったんです。この出来事があって、寧々がどれだけ弟のことを想っているかがわかり、決して正しい行いではなかったにしろ、寧々のことが好きになりました。そして最後の手紙のシーンも非常に良かったです。

「わたし以外の誰かと歩かないでください」
「わたし以外の誰かと肌を重ねないでください」
「わたし以外の誰かと一緒にいないでください」

これが姉として最低の言葉だと認めながらも、自分の気持ちには嘘をつけないし、この願いを止めることもできない。寧々の正直な気持ちが書かれていて、物語的にはハッピーエンドではないのかもしれませんが、寧々にとっては満足のいく夢物語だったように感じます。

家族全体のことを考える姉と弟のことだけを考える姉。普通に考えれば前者の方が魅力的なのですが、この作品に限って言えば後者の方に気持ちが強く向きました。だからこそ評価が高い部分もあり、逆に寧々が合わないという人にとって見ればただの自己中女が暴走しただけにしか見えないかもしれません。寧々お姉ちゃんを見てどう感じたかによって評価が分かれる、そんな作品だと思いました。