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asteryukariさんの虚構英雄ジンガイア Vol.3の長文感想

ユーザー
asteryukari
ゲーム
虚構英雄ジンガイア Vol.3
ブランド
SowChild(ばかすか)
得点
84
参照数
119

一言コメント

いや本当に凄い。まさかここまで良質なお話を見せてくれるなんて。気になっていた部分へのケアは勿論、それに関連するエピソードはどれも目を見張るものばかりで、時間の経過が恐ろしく早かった。物語はどのような結末を迎えるのか、非常に楽しみだ。

**ネタバレ注意**
ゲームをクリアした人むけのレビューです。

長文感想

正直なところVol.1、Vol.2をプレイしている時点ではそこそこ面白いくらいの印象だったが、このVol.3でぐんと面白くなった。これまで気になっていた登場人物達の掘り下げもしっかりされていて、加えてそのエピソードも思わず涙を流してしまうばかりだから凄い。

今回は四人の視点で進行していく形式だったため、視点の切り替わりの多さからだれてしまうのではないか、個々が薄くなってしまうのではないかと危惧していたがそんなことはなかった。それがかなり嬉しい。

英雄のお話では彼女との出会いは勿論の事、高校生活を通して英雄の性格や長所短所が見えてくる。今まではあまり彼に魅力を感じなかったのだが、このお話を読むことで徐々に好きになっていった。また、そうやって幸せな日常をおくる一方で、その日常に溶けていく自分に恐怖を感じる場面なんかもよくて、この世界にいつまでも浸ってはいけないことを強調していた。

鉄郎の話にはまず鉄郎に話が用意されていることが驚きだった。てっきりモブキャラとして処理されるのかと思っていただけにこれは嬉しい。そしてこれがまた良い話なのだ。

桜子と出会い、閉じこもることを辞め、鬼桜の皆と過ごすことになる。この過程が凄く良くて、始めの乗り気でない部分も描いてくれたからこそ、ここまでのものなったのだろう。彼女の側に居ることの楽しさを覚えて、鬼桜のみんなと一緒に居る心地良さを覚えて、そうして食べるあのお餅はさぞうまかっただろう。あのシーンをあまりにも温かかったので少し泣きそうになってしまった。Vol.2で桜子を庇った気持ちをよくわかる。非常に良い話だった。

省吾の話はあまりの理不尽さに読んでいて辛かったのだが、故に感動的な話だったなと。辛いのは省吾だけじゃなかったのだ。父親と一緒に泣いて、一緒に笑うそんな光景を見せられたらこんなの涙を流さずにはいられない。彼らの気持ちを考えて文章を読むとぎゅーっと胸が締め付けられた。この作品のプレイヤーとしても「ゲームってすごいよなぁ」と。

そして御子神先生のお話はこの作品の設定に深く踏み込むような話ばかり。魔女の存在だったり、静ちゃんの出生の秘密、立ち位置だったりがわかってきて終章へ向かう準備はできたことを予感させる。また、御子神とのんちゃんの繋がりも、本作で初めて出てきたにしては実に自然なもので、別れのシーンでは感傷的になってしまった。これは日常シーンがしっかりしていたから。

これだけ感情を様々な方向に動かせておいて、最後にまた特大の気になるポイントを残していくのはずるい。こんなの気になって仕方がないじゃないか。この先何が待っているのか、あの世界を脱出することはできるのか、楽しみだ…。