壮大な物語ではないが、やってよかったなと思える作品でした。
ミステリーモノというよりは雰囲気モノの方が合ってるかもしれません。ただ、謎が多いのは本当で、一周目自体は十二時間ほどで終わったのですが、いまいち消化不良あるいは理解不足なこともあり、二週してようやく自分の中で色々繋がりました。始める前は「百合」ということで多少身構えていたのですが、終わってみると確かに百合描写はやや濃いめではあるものの、もっと純粋で優しいお話でした。始めは佐知子が貴呼に振り回されているようだけのように見えましたが、佐知子にとってそれは不快ではない、とても心地よいものなんですよね。それをお互い理解しているから二十年以上も幼馴染やってるわけで。
内容について触れると、終盤の展開も良いんですが何より日常風景(過去のものも含む)が素晴らしかったです。詳細なエピソードを物語の合間合間に交えることで、佐知子と貴呼というキャラクターがどんどん肉付けされていく。そんな感じがしました。また、エピソード自体も現実味に溢れたものが多く、鉄の板をヤスリで削って木に向かって投げるなんて、実際にしたことある人もいるんじゃないでしょうか。ただ、単なる日常シーンについても、これでもかというくらい書かれているため、裏を返せば“起伏がない”と取られてしまうこともあると思うのですが、自分はこういった日常の描写、作品の雰囲気を味わうのが好きなため、そんなに苦ではありませんでした。
自分が引き込まれ始めたのは六章辺りからで、この辺りから話が展開していくのですが、正直散りばめられた種が多すぎて二週目でやっとあの会話の意味に気付くというシーンも多々ありました。徐々に楢崎視点が増えていき、楢崎と貴呼が出会うときに物語のピースが埋まっていく感覚はプレイしていて心地よかったです。また、そういった終局に向かう話の中でも、スパゲッティに関する雑学などを日常会話としてぶち込んでくるのも作品の雰囲気を保っていて良かったと思います。壮大なミステリーモノではないんですよね、だからこそこの作品に魅力を感じたのかもしれません。
終章では、二人の思い出であり、この作品のアイコンでもある「四葉のクローバー」をタイトルに、悲しみというよりは、二人とも充実感に満ちた美しい結末を迎えてました。最後まで美しい百合物語でした。いや、純愛と言ってもいい。
また、TIPSはクリア後にまとめて見たのですが、佐知子と楢崎の出会いや謎だった部分の補完的な要素があったり、TipsⅣ.裏返る海の貴呼の最後のセリフでは、佐知子への想いが汲み取れたりして、もう一回やろうと思わずにはいられませんでした。
インパクトがないと言われたらそうなのですが、そういった楽しみ方ではなく、いつまでもこの作品に浸っていたと感じた作品でした。また、マルチサイトや時系列が頻繁に変わったり、それに加え起伏のない話が続いたりするため、序盤は退屈に感じる場面もあると思います。話のテンポもそうですが、文字の演出が長かったりもしたのでその辺も弱かったですね。しかしそれを差し引いても、二週目に発見する新たな話の繋がりや、結末を知っているからこそ思うものもあり、私は非常に楽しめました。